天国までの百マイル
まいった・・
泣かせる作家だと知っていて、そのまんま泣いてしまった。
手術は不可能と宣告された重い心臓病の母親を、神の手を持つといわれる
心臓外科医がいる病院まで息子が連れて行く話。
バブルで浮かれた後会社をつぶしてしまった男、兄弟の中で自分だけ落ちこぼれだと
いう負い目、妻子も去って行った。。
母親を無事連れて行く事ができれば自分ももう一回人生をやり直せる!
そんな衝き動かされるような思いで男は母親をワゴンで運ぶ。
この東京から千葉までの100マイルが一種の成長譚、男の再生のドラマとなる。
子供時代の話、兄弟への思い、母親の若い頃のこと、交わされる会話をとおし
自分自身と母親の人生を振り返る。
憎らしいほど上手いと思うのは、分かり切った流れをさらにセリフにまで
するのに、それにもかかわらずひきこまれる点だ。
例えばマリが「とことん落ちぶれたけれどもうすぐ転機がやってくる。
何か行動を起こす時がすぐそこに来てるのよ」とヤッちゃんに言う。
作品の流れを説明しているわけだ。
しかし少しも嫌じゃない、それどころか、マリの慈母のようなセリフに、
優しいなぐさめと癒しの予兆を感じて自分も物語の進行とともに
幸せ気分になってゆく気さえする。
いつのまにか同化しているのだ。
マリや藤本医師など少し出来すぎだと思うが、この甘さも読んでいて心地よい。
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