銃・病原菌・鉄(上巻)

並行して読んでいる「合衆国崩壊」のエボラ出血熱や炭そ菌事件などを 考えると、どうしても人類と病気について歴史的に捉えた本が読みたくなる。 そんなとき、図書館で目にとまった本である。 著者は自然人類学者でニューギニアなどの調査・研究をしている人だが、 この本ではなぜ西欧社会が世界の富をにぎったか、についてを考察している。 決して人種的優越性によるものではなく、文明の萌芽より前の環境、植生や動物の分布など 自然界の違いが大きな差になったという論点である。 たしかに面白いし、真実も含まれている。 稲や小麦などの野生型は簡単に栽培型に変異するが、植物によっては 「自家受粉可能で、かついっせいに発芽する」ような栽培型に、簡単には変異しない。 だから農業の発達が野生型の稲や小麦があったところが有利だった、 なんて記述は目から鱗だった。 家畜化可能な大型でおとなしい動物がユーラシア大陸にいた、という大きな差。 さらに人間がいるところでも平気で交尾できるというのがポイントというのも面白い。 そうだね、確かにパンダとかヒョウとか希少動物ってなかなか交尾しない。 馬なんて全然オッケーだぁ。 動物の社会構成も重要で、集団で飼うことができる動物(牛や羊など)がいる一方 テリトリーがはっきりしていて稠密では絶対飼えない動物もある、という点も、 分かれ目だ。 そういう意味で、自然界の違いは納得できる部分が多い。 だが、ユーラシア大陸の人間全部にあてはまる条件のなかで、とりわけ西欧社会が 世界征服へ乗り出したのは、なぜなんだろう。 この点が曖昧だと思う。人はいったん優位性を感じると征服欲にかられる、という ことなんだろうか。 領土拡大欲求の強さ、闘争心、、なんか背景にある文化の違いを感じるけどなあ。 さて病気に関しては、家畜と関連して語られる。 ここが面白かった。 冒頭にも書いたが、エボラ出血熱やエイズなどはもともと人間のウイルスではないだろうと 考えられている。また炭疽菌も家畜の病気だ。 でもこの例は特殊なのではなく、病気はそもそも動物から移ったものが多いという。 またジェンナーの例でもそうだが、動物の持っていた病気に感染することで、免疫が できるということもある。大型動物を家畜化したながーい歴史の中で人は様々な病気にたいして 免疫ができたのだが、たとえばアステカとインカなど新大陸ではリャマを除いて家畜化できる 大型動物がいなかったため、天然痘にたいして免疫がなかった。 だから、ピサロが残虐だったことは事実だが、それ以上に征服者が持ち込んだ病原菌によって 壊滅的な打撃を受けたのだという。 オーストラリアやニューギニアでも同様だという。 新しい動物がもちこむ病気に原住民は伝染し社会が崩壊する。 くりかえしになるが、著者の言うことだけが原因で今の世界が 作られたとは思わないが、全体の流れも分かりやすく面白い本だった。 ------- この本では全く言及がないが、家畜化は、さらに社会構造に影響を与えるとわたしは思う。 というのは、日本には無い文化だが、家畜を伴う社会では「去勢」が 当たり前の文化である。 牛は日本では牛だけど、英語ではcawカウ♀とbullブル♂とoxオックスがある。 オックスは去勢された雄牛のことだ。 牛はリーダー以外の雄は去勢して、争いが起こらないようにする。 そうしないと集団で飼うことはできないのだ。 たぶん他の家畜もそうだと思う。 で、去勢されると子孫は残せないし、リーダーにかしずく一生ってわけだから、 なんちゅうか、集団の統率、支配、被支配、という感覚が非家畜社会とは 根本的に異なる気がするんだよねぇ。 ま、これは横道でした。。 さて、厚生省だかに「動物からうつる病気」というページがあったけど、 最近はペットからうつる病気が主流なのかな。これもけっこう読んでいて恐ろしい。。 ------------------- 戻る