D-260「恋愛劇場」 (D-289 Loveplay) ダイアナ・パーマー
翻訳でばっさりと省略されてしまったヒーローの大懺悔
<ざっとあらすじ>
不妊症ヒーローは、彼女のおなかの子が自分の子だと認めることができない。
逆に妊娠を告げたヒロインをふしだら扱い、ののしってしまう。
つわりのひどい時期は、経済的な問題も重なり、ヒロインはボロボロに。
一方的に立腹していた大馬鹿野郎ヒーローは、ヒロインの困窮をみて
援助したい気持ちがわいてくる。
だが、つらい時期をなんとか乗り切ったヒロインは、ぐっと強くなり、
アパートにやってきたヒーローに向かって、
「あなたは愛を恐がっている臆病者だ。この子はわたしの子で、
あなたの手を借りるつもりはない」ときっぱりと追い払う。
ヒーローは、それから3週間、家にこもったまま。
ヒロインは心配になり、様子を見に行き、荒れ放題になっている彼の家を
かたづけ、食事をつくり、そして、もう借りはないと、静かに去る。
すると、翌日、ヒーローは、憑き物が落ちたように、さっぱりした顔で
彼女の楽屋口にあらわれ、彼女を気遣うように家まで送り、とても熱心に
とても優しく、結婚したいとヒロインに言う。
翌日、友人と昼食をとる彼女、「許しちゃだめよ」と友人に言われながらも、
彼女はちょっぴり揺れている。そんなところにヒーローは再びあらわれ、
彼女を車にのせて、彼の家に連れて行ってしまう。
さぁ、ここからが、問題の箇所だ。
翻訳では6行、ふたりは半年ぶりに愛をかわし、彼の改悛した様子に、
あっさりヒロインは納得して、自分の子だと認めてくれたのね、チャンチャン。
もう、お次は結婚して陣痛シーンへと変わってしまう。
えっ??ここまでぐちゃぐちゃとずぅ〜っと引っ張ったのに、これでおわり?
読んだ人が怒・怒・怒! 怒りの鉄拳ぱ〜んちっ としたくなる箇所ざます(笑)。
この6行部分は、原書で8ページ強でございます。
直訳は以下のとおり。(長いです)
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数分後、いったいどうやって彼のアパートまで来たのか、わからないまま
気付くとソファの上にいて、餓えたようなキスをされていた。
「知ってる?Possession is nine-tenths in the law 持ってるもん勝ちってこと」
「え?なにが言いたいの?」
「つまりさ、きみはここにいて、ぼくはもうきみをこの家から出すつもりはないってこと」
くっくっと笑いながら 「きみはぼくのものさ」
「誘拐よ!」
「うん、それが最後の手段ならね」
彼女のツイードコートを脱がせ、バーガンディのコールデュロイのスカートと上着を脱がせ、
さらに脱がせようとすると、ベッツは彼の手をおしとどめた。
「カル、わたし、すごく太ったのよ」
「こんなにセクシーだっていうのに、ばかだなぁ」
カルはベッツを抱き上げ、笑いながら寝室に運んだ。そっとベッドカバーの上に横たえ、
すばやい慣れた手つきで残りの服を取り去った。彼女の裸身はクリーム色でまるくて、
申し分ない。 「わからないのかい?」 ささやきながら、おなかと胸に触れる。
「満開のバラよりも美しいってことを」
ベッツは下唇をかんで、「もっと大きくなっちゃうのよ」
「ばんざい!」 カルは輝くばかりの笑みをうかべ、「きみをもっともっと抱きしめられるってことだね」
ベッツの目は涙でぼやけてきた。 「わたしのこと醜いって思わないの?」
「ぼくが服を脱ぐまで待っててくれ、ハニー、そうしたら、ぼくがどう思ってるか教えてあげるから」
彼は、彼女に見られていることを承知で、彼女の興奮を楽しみながらゆっくりと服を脱いだ。
初めてのことだった。ふたりが付き合っていた頃も、こんなふうに服を脱いだことはなかった。
いつも、もっと、急ぎすぎていた。
だが、今はゆっくりと時間をとって、自分の大きくてかたい筋肉でおおわれた体をみせながら
彼女を挑発した。
「ぼくが欲しいかい?ベッツ」 最後の布を取り去り、腰に手をあてて彼女の目の前に立った。
ベッツの目は彼の姿を賞賛していた。わたしの恋人、わたしの子供の父親、わたしの世界すべて。
「息をするよりも、よ」とささやいた。
カルはベッツのかたわらに腰をおろし、彼女の手をとって、自分の胸を撫でるように導き、
密生した胸毛と温かい筋肉の手触りを楽しむ彼女を見つめた。
「ぼくたち、こんなふうにしたことないね」 どんな風に触わってほしいかを
ベッツに教えながら、カルはささやいた。
「愛を捧げながらこんなことをしたことがないね」
ベッツは息をとめた。「いいえ、わたしはいつも愛を捧げてたわ」
「そうだね」 くちづけをしようと身をかがめながら 「でも、ぼくは違っていたんだ」
そして彼がキスを始めると、ベッツにはその違いがすぐにわかった。
それは一種の求婚のようだった。やさしい求婚、からだよりも魂をのみほすような、
お互いをおもいやる気持ちと無私の愛情。 カルが与えてくれるおだやかな情熱に、
ベッツの心臓はうつのをやめてしまったかのようだった。
ベッツは彼のからだがシルクのように上におおいかぶさるのを感じた。彼はベッツのからだの
すべてを知り尽くそうとするかのように、痛みをおぼえるほどの優しさでキスをした。
ゆっくりと、徹底的に。その柔らかいキスのひとつひとつに、これまでみたことも無かったような
感情がこもっていた。愛。
「素敵だ」 かすれた声でささやきながら、ベッツのウエストから腰のあたりまで
カルは唇でなぞり、ふたりのこどもがいる膨らみの上まできた。 「ぼくはいままで
これほど深い感銘をうけたことがないよ!」
彼は震えていたが、身もだえするベッツの体をなおも愛撫しつづけた。まるで、これまで
一度も女性のからだに触れたことがないかのように。 彼女はなすすべもなく呻いた。
甘美な苦痛を与えてくれる彼の手と口にすべてを委ねて。
「カル、お願い!」 顔を上げて、荒々しくオニキスよりも翳った彼の瞳をのぞきこんだ。
かれの瞳は奇妙に輝き、顔はひきつり、熱い思いで紅潮していた。体を起こしながら
ゆっくりと微笑み、ベッツの腰を自分のからだの下にひきいれた。
「我慢できない?ベッツ? だからこんなに震えているの?」
「た、たえられないわ・・」 あえぎながら、手を伸ばして、彼の腰を引き寄せようとした。
「あ・・あ、あなたが・・ほしいの・・カル!」
かれは大きな手を彼女のからだに沿ってすべらせ、彼女を持ち上げた。
ベッツがかれをひきよせようとすると、「だめだよ」 そうささやいて、
「だめだよ、動かないで。ぼくにやらせておくれ。ほら、ダーリン、見てごらん」
ベッツは驚きに目を大きく見開いた。なぜなら、これほど親密なことは今まで
一度もやったことがなかった。
「カル!」
「あぁ、いい」 目を閉じて、口をあけたままで、あえいだ。
「すてきだ、あぁすてきだ、なんていいんだ、すごくいいよ!ベッツ!」
ベッツは彼の声をきいていなかった。からだに火がついたようだった。
かれのからだの甘美な圧力で溶けた水銀のようだった。ふたりの心臓は
一緒に鼓動をうち、かれの激しい動きは彼女自身の悶えと重なっていた。
カルは唸り、ベッツはからだを高くあげ、死んでもいいほどの頂にむかって
のぼっていった。そして、ふたり同時に、あふれだした熱い情熱が爆発し、
そして、何かが起こったのだった。ベッツは泣き出した。まるで、その何かが
彼女のからだを洗い流してゆくように。それは、汗で濡れてまだ震えて
いるカルの体にむかってからだを放り上げ、心をどこかへ飛ばしていった。
すると、間をおかず、カルがしゃがれた声をあげ、泣き出した。
ふたりの鼓動は狂ったようにうちつづけ、部屋は泣き声でうまり、
他には何もきこえなくなった・・・
ベッツの閉じたまぶたに、ひたいに、頬に、喉元に、カルはくちづけをし、
なぐさめるように、キスで涙を乾かした。 彼女は目をあけて、はっとして、
かれの愛をたたえた温かくやさしい顔を見上げ、また泣き出してしまった。
カルは柔らかくて甘い笑い声をあげ、シーツのすみをひっぱって、彼女の涙を
ふき、「となりの人がいないといいね」 いたずらっ気をだしてささやいた。
「そうじゃないと、警察を呼んでしまうかも。 ここで誰かが拷問を
受けてると勘違いしてね」
「どうしようもなかったの」 ベッツはつぶやいて、赤くなった。
「ぼくもだよ」 キスで膨れたベッツの唇にまた優しくキスをした。
「あぁ、ダーリン、なんて素敵だったんだ。ぼくたち、こんなふうに
愛し合ったことは一度もなかったね」
ベッツはカルを抱きしめ、汗でぬれた彼のブロンドの頭ごしに、
天井をみあげながら静かに言った。 「ええ、一度も」
「ぼくは君を愛していることに気付かなかったんだ。君がぼくを責め、
それから、あっちへ行け、と言うまで。 それでようやくわかったんだ。
きみ無しでは死んでしまうって。でももう手遅れだ、って思ったんだよ」
ベッツの心臓ははねあがった。カルが自分を愛してることは、もちろんわかっていた。
つい先ほど起こったことを考えれば、気付かないほうが無理だ。
でも、口に出していってくれるのは嬉しい。
カルをぎゅっと抱きしめ、かれの冷たくしめった髪をいとおしそうに指ですいた。
「あなたがいない、つらい日々だったわ」
彼の手がさっと緊張した。「ぼくのせいできみをそんな目にあわせてしまった・・」
「もういいのよ。大丈夫。わかっているわ」
「いいや、きみはわかっていない」 ゆっくりと体を離し、深く息をして、
タバコに手を伸ばした。半身を起こした彼は裸でも堂々としていた。
タバコをすう間、彼女を横にひきよせた。
「ベッツ、きみが言ったことは、ほとんど当たっていたよ。自分では気付いていなかった。
自分の無精子症を、人と感情的にかかわることを避けるための武器として使っていたんだな。
ぼくの両親は結婚や献身のお手本というのには向いていなくてね。ぼくの人生は
両親に大きく影響を受けていた。愛しあう家族とかそういうものを全然知らないんだ。
ぼくはそういうものが欲しいと思っていたけど、恐くて身をひいていた。」
ベッツを見下ろしていった。「ぼくは、きみを愛することが恐かったんだ。なぜなら
きみを失うのが恐かったから」
ベッツは彼の腕の中ですこし頭をあげて、見つめながらからかうように言った。
「もしあなたがこれを知っていたら。 わたしは、山火事のなかを、両手にいっぱい
マッチを持って、あなたを追っていたのよ。離れていた間もずっとそう。
あなたへの気持ちは決して変わらないわ。再会した時まだバージンだったことを
どう思う?」
「考えないようにしてた。だってあまりに明らかだろ?
きみの最初の男性になるってことが、きみにとってどういう意味をもつか、わかっていたからね」
ベッツのやわらかいおなかを触りながら、にっこりと微笑んだ。
「あぁ、今ここに、ぼくたちの娘か。。あぁ、きみと赤ん坊を失ってしまったと思ったとき、
自分のことをどんなにののしったことか。きみのアパートから追い払われたあの午後からずっと
地獄のようだったよ。きみが早まって誰かと結婚してしまうんじゃないかと思って
恐くてたまらなかったんだ」
「それで、あなたはひきこもって、お酒を飲んでたの?」
「そうは違う。実をいえば、ちょっとしたことに取り組んでいたんだ」
カルはタバコを置いて立ち上がり、別の部屋へ消え、しばらくして手に原稿を持って
戻ってきた。ベッドの上にそれをぽんと放り、ベッツの横に腹ばいになって寝転んだ。
「それ、読んで」 とつぶやき、「ぼくは少し寝るから、その間にね。それで、
ぼくが起きたとき」と片目をあけて、「また熱々のメイクラブをして、それから
結婚式の計画をたてよう」
ベッツはひと言言おうとしたが、「読むのだ、女よ。読めよ!」
つづく一時間、ベッツは読んだ。それは舞台の脚本だった。
話は小さな夏のローカル劇場で奮闘している一組のカップルの話だった。
ヒーローは不妊症だった。彼の恋人が妊娠し、ヒーローはその子供を
自分の子供だと信じなかった。しかし、最後には、妊娠可能性のテストを
受けなおす事もせずに、ほかの科学的な方法で調べることもせずに、
かれは信頼することこそが大事なのだと悟る。
ヒロインの言葉を信じられるほど愛するか、全く愛さないか、どちらかなのだ。
彼は、おなかの子供は自分の子供であると決断する。
混乱して荒れ狂った関係の後、ふたりは結婚し、生まれた双子と共に幸せに暮らす。
ベッツは長いこと、ちらばったページをみつめ、これは自分たちの物語だと気づいた。
カルはわたしに、おなかの子が自分の子だと信じていると告げているんだわ。
世界中の人に、わたしを愛してるって告げているんだわ。
涙が頬を伝わってこぼれ落ち、敬虔な気持ちになった。
「おやおや、リトルママ、泣かないで」 彼はささやいて、寝返りをうち、
腕のなかに彼女を引き寄せた。
「きみはちいさなケイトをびっくりさせてるよ」
ベッツは激しく泣き出した。「あぁ、カル」温かくてがっしりした肩に顔を埋めた。
「愛してるわ!」
「ほんとに?それじゃ、こんなことしてないで見せてくれ、そしたらぼくもきみにどんなに
愛しているか見せてあげるよ。そして、そのあとできみの両親に電話をして、
義理の息子と孫娘ができたことを知らせてあげよう」
ぐすんと鼻をすすり、「あぁ、(できちゃった婚で)恥をかかせてしまうわ」と泣き笑いした。
「彼らは嬉しがって恥ずかしいなんて思わないさ。こっちにおいで、weeping willow。」
(泣いているやなぎ、しだれやなぎの事だが、優しいからかいの愛称だよね)
彼はベッツをからかいながら彼のからだの上にひきあげた。彼女の胸はかれのはだけた胸の
密生した胸毛にこすられて、感じ始めた。
「ぼくにメイクラブをしてくれ」
「でも、どうやったらいいのかわからないわ」恥ずかしそうに抗議した。
「だってあなたはいままでわたしがイニシアチブをとるのを嫌がったじゃない」
「それは、アトランタを去って半身を失くしてしまった男のようにさまよっていた、
その理由に気付く前のことさ」 おだやかに言いながら、彼女の裸身を愛でるように見つめた。
「ベッツ、ほかには誰もいなかったよ。2、3人、遊んだことはある、でも欲望だけでは
けっして満足を得ることはできないもんなんだ。だから、ぼくは楽しむだけのセックスを
やめてしまった。きみに再会するまで、そうだったんだよ。
でも今はきみと色々なことすべてやりたいんだ。
きみと共に生きて、愛して、むちゃくちゃ甘やかして。一緒に計画をたてて、
生まれてくる赤ん坊を楽しみにして・・」
自分のくちびるで彼女のくちびるをさっとなぞり、
「ぼくはきみと共に老いていきたいんだ、darling woman」
「わたしもあなたと共に老いていきたいわ」
「でも、今すぐじゃない」 そうつぶやきながら、ベッツのからだをしっかりと
自分のからだの上にのせて落ち着かせた。
「ぼくたちはたくさん経験をつまなくちゃね。さて、まず、きみはこの手をここに置いて」
ベッツのショックを受けたような顔を見て、かれは笑った。 「そう、それでいい。
それで、からだを起こしてごらん、ダーリン。 あぁ・・、なんて表情をするんだ!
スイートエンジェル、ぼくたちは時々こんなふうに位置をかえてもいいんだよ、
知らなかった? まだ気を失うには早いよ、ベッツ、教えてあげるよ・・・
そう!おぉ、そうだよ、ダーリン、そう・・・!」
「でも、カル・・・・!」 ベッツは呻いた。
カルは手を彼女の腰にあててすこし手助けをしたが、すぐにベッツの言っていることを聞いて
いられなくなった。。そしてベッツも、理性を混乱させるほどの感覚に身をゆだね、
彼の教えるままに従った・・・・
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それからの数日間ほど、ベッツの人生のなかで幸せだったことはなかった。
(なぜか翻訳では数週間となってるけど)
というわけで、6行の中身は、こんなに大泣きしてこんなにホットだったわけです。
かわいそうなカル。
日本では、カルのおばかなメロメロぶりがわかってもらえなかったね(笑)。