夜が終わる場所

登場人物の造形がとても優れていて、それぞれの人間の姿、表情が
目に見えるようだ。もちろんとらえようのない心の動きも。

夜の匂いに満ちている。
沈んだような哀しみに満ちている。
たくさんの、口にだすのを止めてしまった事どもが積み重なり
長い年月のあと苦い痛みとなって姿をあらわす。たくさんの後悔、疑問。

ある少女の失踪事件を通して過去の失踪事件が回想され、それらが思わぬところで
重なり合う。子供を喪失した男と子供を喪失しまいとする男。
多くの愛に泣ける。。

目をそらしていたことに面と向かい合う決意をし、夜に決別する主人公。
昼の光の大切さを述べるラストがこの作品の味わいをいっそう深くしている。

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リバー・ソロー

「夜が終る場所」がとても良かったので、それまでの作品を読んでみたいと
思っていたらちょうど図書館にあった。

で、、うーん、、なんだか居心地が悪い、
夜が、、同様暗い。滅入る。しかも、なんていうか座りが悪い。
この作者独特のムードがあり、わずかに傾いた斜面を少しずつ引きずられていく。
この哀しみ下降感覚はとても上手いのだが、ミステリー部分が少しちゃちなのだ。
重厚な配役で過去もわけあり、泣かせる、なのにたいした話じゃない。
ランカスター先生、これからどうなるのさ、、やばくない?

でも、この作者の描く女性の美しい事といったら。
美しく、近寄りがたく、悲しく、複雑な女性を描くのが、むちゃくちゃ
上手い。こんな女性いるわけがないっ!と言いたいところだが、
もしかしたらいるかも、と思わせる。彼女が通ったあとつけていた香水の
かおりがするかのようだ。

やはり作家というのは、上手くなっていくんだなぁと感心したりした。

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ハドリアヌスの長城

変わった題名だ。ローマ皇帝ハドリアヌスが長城を作ったなんて
今日まで知らなかった。
偶然立ち読みした「本の雑誌」で誉めていたので手に取ってみた。

出だしは変な興奮と饒舌だが、一時の興奮が冷めると鈍い痛みがじんわりと広がる。
なんとも救いのない打ちのめされた気分になる。
失った自分自身を取り戻すことがこの話のテーマであるが、
それまでに失ってしまったものが多すぎて、泣けてしまう。

刑務所の街。赤いレンガの塀がすべてを支配する街。塀の中で失われる時間。。

2つの殺人事件と脱走の謎解きを軸にして、自分を失った男が22年の歳月の末に
ようやく再生し自分の内なる塀を壊し真の自由を手にいれるまでを描く。
多くの人間がでてくるが、どの人物も顔のしわ服のシミまで見えるようで
作者のストーリーテリングの腕が素晴らしい。

主人公をなんてお馬鹿さんなの、と言って叱る妹や友人らがまた良い。
嫌な奴がいっぱいでてきて悲しくなるほどだが、手を差し伸べてくれる人が
ホント泣かせてくれるから読後の気分は悪くない。
分厚いけれど読んで損はない。

つけたし感想。
自分の親友が自分の愛する女性と結婚する、微妙な3人の関係がいつまでも続く、
っていうシチュエーションってよくあるんだよね。。
上の「夜が終わる場所」もそういう所があるし、この「ハドリアヌスの長城」では
もろそれが大事なストーリーだ。
でも、これの男女が逆になったのってほとんどないんだよね。
っていうか、あったとしてもせつなさやストイックな風情が男2女1の時ほど
起こらない。女2男1だと、なんだか物騒で恐ろしい?(笑)



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