火車 傑作。面白くスリリングで胸を衝きせつなく哀しい。 宮部みゆきの魅力が十二分に発揮され 人を見つめる目の清らかさがうれしい。 取り上げたテーマは大変重く大きいのだ、 消費者金融からお金を借りてカード破産にまでなる人が特殊なのではない。 「今の自分」は本当の自分ではない。 「今の自分」でなくなったら幸せになれる。 違う自分になったら幸せになれる。 これが多くの問題の根底にある原因で、この心の渇望から 抜け出すことは容易ではない。 もう少しお金があったら、 ヴィトンのバッグをもって、フェラガモの靴をはいたら、 エステにいってやせたら、 今と違う人生がひらける。 ナイフを持ったらもう自分を脅かすものはないと思える。 貧相でちっぽけな自分がきらいで、見たくないと思っている。。。 しかし、この世の中消費者ローンとエステが大はやりだ。皆 心の飢えへと進む火車に乗っている。 ======================================= 理由 いつも感心するが捉えている問題がとても骨太だ。 単なるタイムリーな話題ではなく、いつも そこに流れる人の気持ち、人の営みに真面目な目が向けられている。 家族とは何だろう。 価値観や幸福感がお金に換算されてしまう中でもがく人の弱さ。 ばらばらになりながらも架空の家族を作ってしまう不思議さ。 ちょっと中学生の少女の狂言回しは不要に感じた。 ======================================= 蒲生邸事件 これはすごくいい。 ミステリであるとともに、主人公の成長譚であるのだが、 これがなんともすがすがしい涙を流れさせてくれる。 読み終えると、はじめに出会った主人公が見違えるほど 大人びていることにえっと驚く。 ======================================= 人質カノン 短編集なので、長編に比べ人生の機微をさらっと描くというようになっている。 そうはいっても宮部みゆきである。つまらないわけがない。 すこしばかり甘ったるいところもあるが、現代社会をきりとる視点はいつもながら 見事で、大上段に構えない語り口にいつのまにかひきこまれ、あっという間に 読んでしまう。 そうなの、問題はコストパーフォマンスなんですよね。 面白くて止められずあっという間に読んでしまうので、読み終わった後 なんだかお金がもったいなかったというか、しまった。。。という気持ちに なるんですよね(爆)。 ======================================= R.P.G なんていう上手さだ。 宮部みゆきに対してこのセリフは無いか。 でもそう言うしかないよな。 扱う問題は常に時代性をもちながら、人間を見つめる目はしっかりとしていて、 しかもトリッキーな快感も忘れない。 この話はとても重たく悲しい。 自分のことをわかってもらえない、孤独だ、寂しい、、 ”自分”を受け入れる世界と”自分”を受け入れない世界、わたしたちは いつしか簡単に世界を2分してしまうようになっているのかもしれない。 やたら”自分”探しが奨励されたからなのだろうか。 でも自分を受け入れない世界に対して、よくて無関心・鈍感で、悪くすると 不寛容なのかもしれない。 何が真実で何が嘘なのかよくわからない。分かっているのはそのどちらもが その時その時では真実として感情を揺さぶり、人は傷つき引きちぎられるということだ。 人生とはこういうものなのかもしれないが、したり顔で言えるほど強い人はいないのだ。
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