火車

傑作。面白くスリリングで胸を衝きせつなく哀しい。
宮部みゆきの魅力が十二分に発揮され
人を見つめる目の清らかさがうれしい。

取り上げたテーマは大変重く大きいのだ、

消費者金融からお金を借りてカード破産にまでなる人が特殊なのではない。
「今の自分」は本当の自分ではない。
「今の自分」でなくなったら幸せになれる。
違う自分になったら幸せになれる。
これが多くの問題の根底にある原因で、この心の渇望から
抜け出すことは容易ではない。

もう少しお金があったら、
ヴィトンのバッグをもって、フェラガモの靴をはいたら、
エステにいってやせたら、
今と違う人生がひらける。
ナイフを持ったらもう自分を脅かすものはないと思える。
貧相でちっぽけな自分がきらいで、見たくないと思っている。。。

しかし、この世の中消費者ローンとエステが大はやりだ。皆
心の飢えへと進む火車に乗っている。


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理由

いつも感心するが捉えている問題がとても骨太だ。
単なるタイムリーな話題ではなく、いつも
そこに流れる人の気持ち、人の営みに真面目な目が向けられている。

家族とは何だろう。
価値観や幸福感がお金に換算されてしまう中でもがく人の弱さ。
ばらばらになりながらも架空の家族を作ってしまう不思議さ。

ちょっと中学生の少女の狂言回しは不要に感じた。


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蒲生邸事件

これはすごくいい。
ミステリであるとともに、主人公の成長譚であるのだが、
これがなんともすがすがしい涙を流れさせてくれる。

読み終えると、はじめに出会った主人公が見違えるほど
大人びていることにえっと驚く。

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人質カノン

短編集なので、長編に比べ人生の機微をさらっと描くというようになっている。
そうはいっても宮部みゆきである。つまらないわけがない。
すこしばかり甘ったるいところもあるが、現代社会をきりとる視点はいつもながら
見事で、大上段に構えない語り口にいつのまにかひきこまれ、あっという間に
読んでしまう。
そうなの、問題はコストパーフォマンスなんですよね。
面白くて止められずあっという間に読んでしまうので、読み終わった後
なんだかお金がもったいなかったというか、しまった。。。という気持ちに
なるんですよね(爆)。


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R.P.G

なんていう上手さだ。
宮部みゆきに対してこのセリフは無いか。
でもそう言うしかないよな。
扱う問題は常に時代性をもちながら、人間を見つめる目はしっかりとしていて、
しかもトリッキーな快感も忘れない。

この話はとても重たく悲しい。

自分のことをわかってもらえない、孤独だ、寂しい、、
”自分”を受け入れる世界と”自分”を受け入れない世界、わたしたちは
いつしか簡単に世界を2分してしまうようになっているのかもしれない。
やたら”自分”探しが奨励されたからなのだろうか。
でも自分を受け入れない世界に対して、よくて無関心・鈍感で、悪くすると
不寛容なのかもしれない。

何が真実で何が嘘なのかよくわからない。分かっているのはそのどちらもが
その時その時では真実として感情を揺さぶり、人は傷つき引きちぎられるということだ。
人生とはこういうものなのかもしれないが、したり顔で言えるほど強い人はいないのだ。



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