六番目の小夜子

恩田陸が人気なのは随分前から知っていた。
これがNHKのドラマになっていたことも知っていた。でも、
なぜか手を出さずにいたのだが、
本って不思議だ。
なにかきっかけとなる事があるわけじゃないけれど、でも読む気になる時が
ある日おとずれる。。

これが一作目だとは。
うまい。
リベラルな(といっても受験という見えない枠があることを生徒自身が分かっている)
地方進学校、高校3年の一年間を、ホラーミステリと言う枠組みの中でせつないほど
生き生きと描いている。

学校と言う、毎年中身の「人」が変るのに、変らない世界。
流れる異質な時間。
伝統と破壊。個と全体。もやもや、ぐしゃぐしゃ、詰め込まれた世界。
自分探しの旅と学校の怪談が実にうまくはまっている。

難を言えば、教師黒川がジョーカーすぎる。彼に物語のキーを渡しすぎた気がする。
登場する生徒像がそれぞれに生きているのに対し、教師像はオールマイティな
あちら側という感じだ。
ま、いつだって教師というのはそんなものかもしれないが。

読むべし読むべし。

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光の帝国 常野物語

透明で優しくせつなく美しく悲しく、出来すぎなほど良い。
連作集とでも言おうか、常野という一族の、それぞれにまつわる物語だ。

これは恩田陸の世界でもあり、同時になんていうか、みんなが読みたいと思う
「物語」のような気がする。
むかし栗本薫が「フラッシュマン」(5人戦隊ものネ)を題材に
なぜ人は「物語」を好むのかを書いていたが、そういう「物語」だと感じた。

読み終わってから、唐突に「ポーの一族」を思い出した。

紡がれるというのがぴったりくる話なのだ。
それぞれの人たちのその後が知りたいと思い、それぞれの人たちのそれ以前が知りたいと思い、
追いかけて、求めて、探して、物語に出会う。


読むべし読むべし

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月の裏側

実はこれまで読んだ3作の恩田作品のなかでは一番不満が残った。
中途半端な気がしてならない。
いろいろあったが、最終的には「ま、いいか」みたいな。

不気味で恐ろしいのに、軽さと可笑しみがある。
これはわらべのような顔をもつ多聞さんゆえか。
異世界を作り上げる力は素晴らしいのだが、多聞さんのキャラにどうしても入り込めず
結果藍子と同様の疎外感を味わうこととなった。

異質なものに抵抗している間に自分の方がマイノリティになる・・
ひたひたと静かに寄せる怖さ、
マジョリティの方に組した方が楽だよー。さあ一緒になろう・・
優しく心地よい郷愁、
どうなる、どうなる、、どきどきどきどき・・・
で、「ま、いいか」??

一番恐かったのは、なんといってもたにしの卵だ!
頭にこびりついてしまった。


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象と耳鳴り

6番目の小夜子で不思議な存在感を残した関根秋の父親、多佳雄を主人公とした
連作短編集だ。
秋の兄や姉、春、夏が登場したが、それなら、秋も登場してほしかったぁぁぁ。
(みーはー)

ざらっとした不安がひっそりと残る。
謎解きの面白さもホラーのスリルもあるが、それよりもなんていうか、
静かで美しい時間をもらえることが嬉しい。
この人が描く人物はどんなに年を取っているということになっていても
みな永遠の少年少女である。

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三月は深き紅の淵を

好きな話だ。
永遠の中途半端。これ誉め言葉のつもり。
「三月は深き紅の淵を」という本をめぐる入れ子の入れ子の入れ子の・・・
おはなしという宇宙、にはまっている。
完成された未完成品、完全なる不完全品、

この本をAとして本の中で話される別の「三月・・」をBとして、1,2,3章までは
それぞれがBのまわりをまわっている、そして4章ではAを書こうとしている
作者がいる。だが、Aだと思っていたものが、Bになってゆく。
さらには無関係なようでいて、パラレルワールドみたいなCの「三月・・」がある。

それによく考えると123章の三月も、同じものではない気がする。
人はそれぞれ物語をもっている・・・
語られるべき物語を待っている・・・

恩田陸は、とある年代をくすぐる術が上手い。
美内すずえや山田ミネコがでてきたり、霧の浮舟やアスパラガス、ギンビスの
お菓子がでてきたり。なにげないチープな小物が読者と本との距離をぐっと近づける。
そういえば、「象と耳鳴り」でちらっと「妊娠小説」のことを言及していて、
「ああ、わたしもあれ、ものすごく面白かったんだ、嬉しいな、恩田さんも
読んでいたのか、、」なんて思ってしまった。

しかし、本を読むとつくづく人間って違うなぁと思う。
恩田陸はどう書いてもすべてが静謐で知的で美しい。
どろどろした執着や卑劣で醜いものがない。性的興奮とも遠い。
郷愁は汚れていないからこそ懐かしいのだろう。

彼女の作品を好きだと思うのに、読んでいるうちにもっとどろどろしたものが
読みたくなってしまうのは、自分が汚れているからか。醜い部分が共感するものも
読みたくなってしまう。
 


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