OUT

分かる。
私はほとんど自分の呼吸する空気を見るようだった。

弁当工場にただよう慢性疲労の日常。
ひびがはいった大地のような乾いた孤独。こちらの方が現実で、
深夜でもあかるく清潔なコンビニは現実のネガかもしれない。

これはホラーではないが、広義のホラーだともいえる。
疲弊した日常に簡単に非日常が割り込んでくる、
その一線はとてもたやすく越えられる。

市井の犯罪を心の闇を中心に描いてみれば、
現実が日常なのか非日常なのかさえあやふやになる。

女性なら絶対感情移入するって思うのですが、
男性はどうなのかな、女って こえーなーと思うのかな。

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水の眠り灰の夢


ストイックな男の話だ。フランシスの小説やハンフリーボガードに心奪われる人なら
誰でもこの話を気にいるだろう。
骨組みも悪くないし時代背景もよい。
東京オリンピック前の、高度成長の熱にうかされる直前の日本、東京。
おさない私の原風景もそこにある。だから余計、話に引きこまれるのかもしれない。

村野善三と親友後藤、後藤の恋人早重、彼らをとりまく人々、どれもが
時代の熱い思いを持っている。

村野ミロを主人公とする一連の小説の存在は知っていたが、読んだことはなかった。
内心小ばかにしていた。女性の探偵物なんておもしろいの?ミロなんて名前だし。
しかし、この本を読んで、ミロシリーズが読みたくてたまらなくなった。
年末はミロものを買い込んで読むことにしよう!

終わり方がまたにくいほど上手い。
まじに村野に惚れそうになった。格好よすぎ!!!

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天使に見捨てられた夜


孤独である。
一人では淋しいと思いながらも、一方では一人で歩く方が好きなんだ。

ミロシリーズの2作目である。1作目から買うべきだったのだが、立ち読みをして
一作目をあらかたざっと読んでしまったのだ。
女性の探偵なんてとみくびっていたのを謝らなくてはならない。
女なら分かる、辱められた感じや舌をかみきってしまいたいと思うような瞬間が
実にうまく描かれていて、一方で謎解きもそれなりにおもしろい。
OUTにしてもそうだが、強い女を書かせたら今一番うまいんじゃないだろうか。

物語はクリスマス前後の2週間ほどであり、今(12月26日)ちょうど
リアルタイムで味わっている。不思議だ。買おうと思ったのは上にも
書いたように『水の眠り灰の夢』を読んだからだが、考えればすべて
偶然だ。。めぐり合わせとでもいうべきか。

あまり幸せとはいえない悲しい気分にひたりながら年末を過ごすのに
ちょうどよい。


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錆びる心


これもまた孤独である。
6篇の短編がはいっているが、特に表題の「錆びる心」は読んでいて
胸をえぐられるほど苦しくなった。

渇いて軋む心、倦み疲れる心、弱い心、甘えた心、
何て残酷に描き出すのだろう。
悲しいわけじゃなくて、あまりに苦くて涙がでてしまった・・

愛なんてこうして文字にしたり、言葉に出すと薄っぺらに聞こえるが、
自分に足りないのは「愛」だと寒々とした孤独の中で知らされる、その時
初めて「愛さえあれば」という事が真実なんだと知る。

そして自分が手に入れられなかった愛の代償として復讐をするのだ。
そう、自分を失う辛さを植えつけてやりたいと願うのだ。
自分がいないとこんなに困ると言う事を思い知らせてやりたいと思う。
相手を痛めつける事を心の支えに生きてゆく。
この心情を話の中で巧みに描いていて、話作りの上手さにも感心する。

「ジェイソン」や「ネオン」など男の世界をブラックユーモア調に描いた話、
静かな狂気が漂う「虫卵の配列」「月下の楽園」
これらも面白かったが、崩壊する家庭、夫婦を題材にとった「羊歯の庭」「錆びる心」
こちらの方が人間観察が冴えていて鋭いと思った。

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柔らかな頬

なんでこんな時期にこんな本を借りてしまったのか。
気分がますます重い・・・

倦み疲れた既婚女性は、読むべきじゃないなぁ。

先が見えること、が嫌でたまらない。
人生のぱっとしない行く末が見えている自分。
こんなはずじゃなかった、、逃げ出したい、、、
自分の中にある飢えと折り合いをつけることができない。

主人公は幼い娘の失踪で、先に進むことも安住することも逃げ出すこともできなくなってしまった。
死期がせまっている刑事と共に娘を探す旅にでる。
刑事もまた先が見えている自分とどう折り合いをつけるか、、を探している。

人生とどう折り合いをつけるか。。とても難しい問題で、ラストになっても
読者はある意味突き放された気分になる。





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