ベクター
この本は98年に出版されているわけだが、95年にサリンを経験した日本より
ずっと危機感があるのに感心する。といってもどこの国もお役所仕事は
形式と前例主義で非能率、はみ出し者の活躍に大都市の安全がかかってしまう。
リーサルウェポンのメル・ギブソンがはみ出し者であるように、物語としては
これは当たり前なんだけれど、現実もそうかも、と思うからちょっと怖い。。
主人公ジャックがくだした診断は「吸入炭疽」だった。
長く監察医をしている者でさえ、お目にかかったことなどないという、今では
珍しい感染症だ。
一例だけ見たことがあるという監察医でもそれは炭疽では一般的な皮膚炭疽だというくらい
珍しいのだ。
しかし、それでもテロと思うわけではない。なぜなら患者は織物輸入を長らく
手がけている男で、羊やヤギの毛皮には炭疽菌の芽胞はついていることがあるので、
職業上不審な死因ではないのだ。
毛皮を保管している倉庫を封鎖するが、オフィスに届いた郵便物などに
注意を払う者はいない。
精製した炭疽の効果を確かめるために行ったこの殺人はこうして誰にも怪しまれずに
事故として片づけられてしまう。
また、炭疽だけではなくボツリヌス毒素の精製も手がけるのだがそれをまたしても
殺人に使うと、患者は大変太っていて喘息気味だったということで通常の呼吸不全として
片づけられる。
この話では犯罪組織は高度に訓練されたテロリスト集団ではない。
だから、つまらないミスが重なるし、仲間割れもおこる。
また物語だから、ボツリヌス毒素で死んだ女性の弟がジャックの知りあいだという
都合のよい偶然もある。
それでもなお、ジャックはこのテロを未然に防げなかった。
真相の近くまでは行ったが、間に合わなかったのだ。
ニューヨークはただ運命の皮肉によって助かったのだった・・
もししっかり訓練された集団が事を起こしたら、絶対成功しただろう。
本の中でもニューヨーク市警殺人課の警部補が
「これは起こるかどうかではなく、いつ起こるかの問題」と言っており、
国として危機感をもって特別対策を講じている様子がわかる。
しかしそれだけでは十分じゃない。一般の医者や役人がアンテナの感度を
上げていないといけないのだ。
しっかりした炭疽菌やボツリヌス毒素の知識も身に付くし、物語としても
良く出来ているし、一読の価値ありです。
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本筋と離れて、、どうにもおかしな所がある。
肺炭疽で死亡した男のオフィスをジャックは訪ねるのだが、どうも掃除されている
ようなのだ。ごみ箱もからっぽだ。
届いた封書はどこへ消えた?
封書のなかにはたくさん粉がはいっていたはずなのに、どこへいった?
掃除人はなぜ病気になっていないのだろう?
これが気になってしかたないです(^o^;;
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