【九年目の魔法】

日常と魔法の混ざった色が透明な水のような、奇妙で残酷で美しく、
不気味でわくわくしてユーモアもある、切なくて痛い話だ。

正統派少女成長譚でもあるが、息苦しいほど「幸せ探し」でもある。
主人公に限らず、主人公の母親、祖母、友人の造形が嫌らしいほどに
生き生きとしていて、楽しみや幸せ、愛を欲して自己主張し、
この話の中に出てくる「男」たちよりも数倍も痛快である。
魔女という位置づけの敵役もまた美しく若い男の愛と命を食らう「女」であり、
なんとなく形をかえた氷の女王とカイとゼルダ、といった感じだ。

日本人的には、お茶目なコミックにでもしてしまえば、
HQ的13才年の差ロマンスとなる。
(そんなわけで、けっこうヒーローに人気があるようだ)

緊張感が持続し、クライマックスの大円団で、
意外にも、あっけらかんと
「こんなのってないよね」と笑い放つのが、
まるでパッと氷が砕け、とけたようで、、ふーむ?
私にはいまだに謎に満ちている不思議な本なのだ。


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【バラントレーの若殿】

カロデンの戦いの影がここにも。

スコットランド西南部の有力な一族、デューリー家
プリンスチャーリーに味方するか否か、どちらが勝ってもダリスディアの家を
守れるように、兄弟のひとりはプリンスチャーリー側へ加勢し、
残るひとりは館に留まり、ハノーヴァー家のご機嫌を取り結ぶ。

兄、ジェイムズは腹黒い猫かぶり、無慈悲で仮借ない性格を自負し
世間もそれを賞賛していた。豪胆で魅力溢れる悪党というわけだ。
弟ヘンリーは正直で堅実だが、人から好かれるたちではない。
父親はもちろんのこと、下記のアリスンも兄の方を気に入っていた。

カロデンの戦いで謀反者となったジェイムズの代わりに、ヘンリーが
爵位と財産を相続する
親類で相当な相続人の孤児アリスンはジェイムズの婚約者であったが、
ヘンリーへの不当な中傷に心痛め、彼との結婚に同意する。
そこからは予想通りの物語が展開され・・・

いや!予想どおりなんかじゃないっ(>_<)
プリンスチャーリーに加勢せず残った弟、ヘンリーの
運命の悲惨なことは、、とても筆舌に尽くしがたい。
無責任な大衆の非難、悪魔のような兄、
心を打ち砕かれ、正気を失い、性格まで変わってしまう。
作者が実験のように、耐え切れなくなるまでじわじわと圧力を
加えてゆく様が空恐ろしい。
「憎しみ」という感情が熟成する様子を描きたかったのだろうか。
正直言って、読んでいて気分が滅入る一方で、万人に薦めたい話ではない・・

原文はスコットランド語が使われているそうだが、訳はもちろん標準語なので
その味わいがないのが残念だ。

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【町でいちばんの美女】

こいつを読むのに、ぴったりの気分って日がある。
そんな日にこれを読めば、くそったれ、ほっとくんだ、忘れるんだ、離れるんだ、
出て行けばいいんだ、排泄物にまみれた世界で眼を閉じて寝てしまおうってな
気分になる。

やばいことに、すごく好きな本になった。
訳がいいのかもしれない。あとがきで、訳者は書いている。
これらは翻訳したのではなく、ブコウスキーといっしょに私が書いたのだ、と。
山ほど出てくるファックユー言葉を直訳せずに、そのニュアンスを生かした点が
きっと、読んでいてすんなりと入っていけた所以だろう。
リンダ・ハワードの「Mr.パーフェクト」で、ヒロインはくそったれ言葉を
乱発するが、それを日本語に訳したところで、実はちっとも生きていない。
こんなケンカ言葉は今の日本じゃ無いからだ。
この問題は、アウトランダーでも同じだ。
思い切った意訳をしても作品が生きるなら、それでいいと思った。
(ロマンス界の戸田なつこ女史と異名をとる(!)、あの方に聞いてもらいたいぞっ)

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【ルーツ】

この本はかつてベストセラーになり、一大ブームにもなった。
昭和53年、当時わたしはなぜか大して興味をひかれず読もうともしなかった。
25年たった今、この本は絶版であり、ネット古本屋から購入した。
どうしても読みたかった理由は、ガバルドンのアウトランダーシリーズ故だ。

3巻Voyagerでジェイミーとクレアらは新大陸へ向かう。
4巻5巻で彼らを待ち構えていたのは、支配と被支配、依存と独立、裏切りと信頼、
アフリカン奴隷、ネイティブ、イングランド、スコットランド、
入植したスコットランド人たちの歴史を描くような話になっていくと、
おのずとこれはスコットランド版ルーツだと思うようになった。

本家本元の「ルーツ」は、スコットランド人の境遇より数倍も悲惨だ。
最初から西洋人とは同等ではない奴隷なのだから当たり前かもしれないが、
アフリカからアメリカに渡る船の様子は痛ましくて吐きそうになる。
これもまた、3巻Voyagerで一部描かれている。
まさに同じ時期に「ルーツ」のクンタと、Voyagerのジェイミーたちは
アメリカに渡ってきたのだ。

大半をしめる物語もよく出来ているが、
作者が実際に探索の旅で出会った人々、語り部、の
部分は、神の啓示のような厳かなものを感じ、読んでいて震えた。
作者が170年前の彼らの村の者の子孫であるとわかり、
手触れの儀式をする様子がこれまた、アウトランダーの「血の誓約」

Bone of my bone, Blood of my blood
を思い出させた。

血の誓約は、秘密結社の入会でもよく使われる言い回しだが、
元はといえば、聖書に書かれているアダムの言葉の同型だ。
聖書で、アダムからイブが作られたときにアダムが言った言葉、

 Adam say: Bone of my bone and flesh of my flesh

/わたしの骨の骨/わたしの肉の肉

( と一般に訳されているが、たぶんmade of って感じだから
あなたの骨はわたしの骨より生まれ、あなたの肉は私の肉より生じた
ってニュアンスだろうな )

んで、ルーツでの手触れの儀式で村人たちが言うことば、

「われわれのものであるこの肉を通じて、われわれは汝であり、汝はわれわれである!」

これが宇宙の真理みたいに聞こえた。
ガンビアまでたどりついたことは奇跡的なことであったが、
一方で、まるで導かれるかのようなものでもあったのだ。



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