写楽殺人事件

読み始めてから、終るまで2ヶ月以上かかった。
ちょうど夏のまっさかりに読み始めて、なんとなく気分が乗れず
気候がよくなってようやく一気に読む事ができた。

この本はそういう本だ。
つまらないと言いたいのではなく、前半の部分を楽しむには夏は
向かない。もっとじっくりと楽しめる季節じゃないと(^^;;
そして、感想は、この写楽解釈の前半部がとても面白かった。
殺人事件そのものは、なんとなくそうかな、と予想した筋と犯人で、
犯人側の心情に感情移入もできないし、主人公側についても
いまひとつ入り込めなかったが、
写楽とは誰かという部分は読み応えがあり、この部分の方が
写楽と仮定された人々の描写がたとえ少なくてもなにか生き生きと
したものが伝わってきた。
田沼意次と秋田藩と写楽、、門外漢だからとても面白かったし浮世絵研究の
世界を垣間見れたようで楽しかった。

冴子さんの意味がよく分からない。いてもいなくても変わらないんじゃないかな。
ちょっとした色添えが必要なのかもしれないけど、なんとなく中途半端。

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ドールズ

写楽殺人事件とは違って、こちらは一気に読んでしまった。
エンターテイメント色が濃くなってるというか、書き慣れたという感じだ。

これもまた地方の豊かな文化と江戸時代の美術・芸能の話がとても
面白い。解説で小池真理子さんが言ってるように、ほんとうにとても
健全なんだよね。
頭の悪い人がいないから読んでいて苛つかずにすむ。
わざとらしいミスリーディングをせずに話をすすめる所がとても好ましい。

これもまたなんていうか、女性が描けていないんだけど、まあいいか。
きっと男性は女性作家の描く男像に、ぷぷぷっと思うんだろうな。
お互い様かな。

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猿丸幻視行

とても面白かったが、話の構成には無理がある気がした。
つまり無理に現代に生きる香坂明を主人公にせずに、素直に折口信夫を
主人公にした話にしたほうがよかったのでは、と思う。

一種のタイムマシンネタをわざわざ使う必要があったのか。
それなら、終わり方ももっと気を遣うべきだ。
あの薬はその後どうなるのか。
なんの目的に使われるのか。
とてもうさんくさい薬ではないか。
子供だましのような過去行き薬が、全体の印象をやや陳腐にしていると思う。

しかし、猿丸額の解読の話はとても興味深く読み始めたら止められない
面白さだった。暗号の解き方を考えているうちに、自然に持統天皇や藤原氏の
時代の中へ入ってゆき、その時代に生きているひとを身近に思うようになった。
これまで食わず嫌いだった日本作家の歴史ミステリーものをもっと読んでみようと
思った次第。

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GEN『源氏物語』秘録

デビュウ作である上の本から、この本までの間、作品の傾向はいろいろ変化したそうだが、
奇しくもこの本はめぐりめぐって、「猿丸幻視行」によく似た作品である。
私のように、井沢作品をこの2冊しか知らないものにとっては、
あれれ?ほとんどおんなじ感じじゃん。と、いささか作者に失礼な感想をもった。

話の流れがあまりにそっくりで、小説としてはちょっと・・と思う部分があるのだが
源氏物語の謎と歴史上の出来事を絡めた歴史ミステリーはとても面白い。

小説よりもこうした謎解き部分だけを書けばよいのに、、なんて思ったら、
実はもう作者はそういう作品へ移行しているみたいだった。


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