Wolf in Waiting
かつてハーレクインロマンス本で、ヒロインもヒーローも人間じゃない、
なんてもんがあっただろうか。
宇宙人やら妖精、幽霊、ヴァンパイア、いろいろあるが、少なくとも
片方は人間だった。

ところがこの本はどちらもwerewolfなんである。

ウルフ3部作の中では人気が低い作品だが、わたしはかなり好きである。
ロマンス本というより、werewolf社会を描いた話としては一番面白い。

尊大なレイシストRacist(人種差別主義者) いや、異質なものへの嫌悪Xenophobeだと
自分で言っていたな、とにかく人間嫌いなんだが、公平な眼をもち、
出来る限り正しくあらんとす、次代の指導者 Noel がけっこういい味を出している。
このアリストクラティックなノエルが心奪われるのが、Werewolfの中で最も
地位の低い女性、Victoria。

ってわけで、Humanと違う社会規範があるWerewolfの社会で、伝統や因習に立ち向かい
次代の指導者としての己れをみつめるお話となる。

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ノエル・デュプレイは、つい6ヶ月前まではリッチでゴージャスな毎日をエンジョイしていた。
化粧品、香水関連企業クレア・デュルーンの副社長であり、開発研究部門の長であり、
自身も化学者であり、能力があり、家柄もよく、若くてハンサムで、
ロンドンに素敵なタウンハウスと黒いフェラーリを持ち、
マッターホルンに登頂し、グランプリに出場し、リビエラで遊ぶ。
いずれマイケルの片腕として働くNo2の自分に満足していた。。
6ヵ月前までは。

香水部門を扱うモントリオール支社で、機密漏洩事件が起きていた。
ノエルは次代の指導者としての能力を試されていると感じる。
犯人を挙げるんだ、この件をうまく処理しなければ、自分が真のリーダーであることを
pac に納得させることができない、いや、pac にではない、
セバスチャン・セントクレアに納得させなくては。

マイケルが退いたことで、たなぼた、お情け、で、リーダーの地位がまわってきた、
みんなそう思ってるんだろ?
こんなもの、欲しかったわけじゃない、こんな責任を背負うなんて思っちゃなかったさ、
自分はやっぱりナンバー2であり、永遠にマイケルに勝てないんだ・・
心の中にいつまでたっても忸怩たる思いを抱えているノエル。
だが人一倍werewolfであることに誇りをもち、werewolfの将来を
案じているのも彼だった。

モントリオール支社での指揮を執ることになり、デザイン広告部門のヴィクトリアを
個人秘書兼新商品広報担当のリーダーに据える。

無理よ、わたしのいうことを皆がきくはずが無いわ。

ヴィクトリア・セントクレアは生まれてから一度も Change したことがない、
anthromorph と呼ばれ、pac では一番地位の低い存在のwerewolfだ。

anthropomorphized animal 半人半獣、 正常な werewolf は Human 体型と Wolf 体型を自由に変化できるわけだが 彼らの集団としての規範は1冊目に書いたように、オオカミ的な社会規範であるから 集団の中での順位がある。 Mating は Wolf 体型のときにのみ可能になるため、 anthromorph は、Wolf 的要素の欠落した生き物で、かつ子供も作れない、 pac の中で最低の順位なのである。
だが彼女は、Change ができないだけで、werewolfの特性を失っているわけではない。 それどころか、仲間の誰よりも鋭い聴覚を持っていた。 さらに、高い知性と鋭い洞察力、おだやかなユーモアとつよい自制心、そして バレリーナを思わせる清らかな美貌、ノエルはヴィクトリアに惹かれずにはいられない。。 人間を一段ひくいものとして扱ってきたノエルだったが、ヴィクトリアを知って以来、 Werewolf 社会の矛盾、旧態依然とした慣習を考えずにはいられなくなる。 機密漏洩の第一容疑者として、ヴィクトリアを疑っているノエルだが、 それでも、ヴィクトリアを無視する社会に、自分でも信じられないほどの怒りを感じてしまうのだ。 ノエルはヴィクトリアに向かって「君が現在のところ一番怪しい」と告げているが、 事件を解明するために協力を頼む。このあたりはwerewolf が実に実際的なあらわれである。 ヴィクトリア自身も、今の状況なら疑われてもしかたない、と捉えている。 ノエルを崇拝するヴィクトリアは、自分の嫌疑を晴らすため、いや、 忠誠心の厚い彼女にとってpac を裏切るなど考えも及ばないことで そんな裏切り者を探し出してやりたいと強く思い、持ち前の英知で犯人捜査に乗り出す・・・ werewolf としては異例な、ペットのネコを飼っているヴィクトリア。 ヴィクトリアの住むコンドを訪ねるノエル。 彼女にかかってきた電話を代わりに受けて、憮然と 「君の人間の友達からだ」と告げると、 「わたしの友人は人間しかいないわ」とこたえるヴィクトリア・・・ ちょうど食事の用意をしていたから、あなたも食べる? そう聞くのにも一大努力だ。なぜなら通常werewolfはこのような最上位のものを 気楽に食事に誘わない、ましてや、異性のwerewolfである。 友人のように振舞ってなぜいけないの、気にしすぎよ。まして私は女として 扱われるはずが無いのだから・・ とても異例のことだが、こんな楽しい食事はずっと無かったと思うノエルだった。 そして、ヴィクトリアと話すうちに、自分自身の不安、自信の無さを 告白してしまう。 なにをバカなことを言っているの。 あなたがより良いリーダーだったからこそ、選ばれたのよ。 あのときほどあなたをリーダーに持てることを誇りに思ったことは無いわ。 裏切り者の探索に神経をつかい疲労の色濃いノエルをなぐさめる様子は ほとんどグルーミングである。 そして、ノエルもまた、いかに彼女が pac から不当に扱われ、 孤独の中で生きているか、痛切に感じ、そしてこのひとときに心から寛ぎ、そして、、 これまでどの女性に対しても感じたことがなかった強い感情を、 まるで電気のような衝動を抑えることができなくなってしまう。。 だが、次代のリーダーになるノエルには、matingの相手が必須なのである。 そう、オオカミ社会と同様、アルファオス(ノエルは第2位オスだったが)は matingして、アルファメスと共になってこそ、pacの真のリーダーとなるのだった。 Changeできないヴィクトリアは、花嫁候補者にもなり得ない。 内通者、裏切り者をあぶりだす罠をしかける緊張。 Anthromorph である彼女とは決して一緒になれない苦悩。 尊大で気楽だったひとりのwerewolfが悩みに悩んで成長する・・うくくく(^m^) Change を恐れるヴィクトリアは、性的・野生的なものへの心理的な抑圧が強い。 その壁をどうやって打ち破るか、ノエルの愛の見せ所である。 ・・・ 大きな集団は、ところどころに綻びを生じていて、時代にあわせた 新旧交代の時期にもなっていた。 ようやく新たなリーダーシップの下、残っている懸念事項はそう、 群れを離れたwerewolf の謎へと進む。。