シルクの言葉
この話、ほんとは結構長いんです。
だから、ちょこちょこと細かい部分が省略されてます。
(ほんとはヒーローは熱烈なキスをしてからしゃべったけれど、
キスしたことを省略する、とか)

でも、そういう細かい省略に加え、一箇所だけ、大胆に省略しています。
それは、ヒロインとヒーローがタルサの母の家から戻って、
一月の第一週、ヒロインの幼稚園の仕事も再開してちょっと疲れた気分の夜、
なんだかけんかをふっかけたい気分で、ヒーローから
「熱いバスにでも入ったら?」と言われた箇所。

ここに空行があり、
そして次の段落は、口争いをしているうちに産気づく2月です。。

そう、実はこの空行は、原書にして10ページもの内容があります。

まず「熱いバス」のあと、ヒーローによるマッサージタイムがある(にゃは)。
ストレッチ・ライン(妊娠線?)の予防のために、毎晩ローションを
塗っているというヒロインから、ローションを取り上げ、
「なんだ、もっと前から僕に頼んでくれたらよかったのにぃぃ」
おおきなおなかを優しくマッサージして、、、
(ああ、なんていい気持ちなの)
「わたし、あなたの髪が好きよ。いつからグレイになったの?」
ヒーロー、若白髪なんだよね。
「これはうちの家系でね、25才で白くなり始めたよ」
なんて会話をしながら、マッサージ。。
「はい、おしまい」
「え、まだ胸をやっていないわ」とつい言ってしまい、
「あ、、気にしないで、夜はいいのよ」
「いつもは胸もやっているのかい?」
「ええ・・」
なんちゃって、、そこからヒーローのマッサージは胸へ。
最初は真面目にやっていたけれど、やはりね、つまんでみたくなるんですよね(をいをい)。
セリフも蕩けるようなことを言うんですよ。。

そして、とうとう、ふたりともあわわわ・・、というところまで行くんだけど、
ヒロインやヒロインのおなかの子供を傷つけるんじゃないか、と心配するヒーローが
優しい言葉で気持ちを十分伝えて、身をひくんです。
その優しさに、ヒロインの心は一杯になって。。
喜びとか愛に近いものが自分の胸のなかで沸々と、まるで噴火寸前の
火山のように膨らんでくるのを感じるんです。

その翌日はドクター・テイラーの診察日で、
予定より大きくなっていて、注意したほうがいい、出産が早まるかもしれない、と
言われる。そして、あちらのほうも控えたほうがいい、と言われ赤面するふたり。

さて、それからが大変だ。ヒーローはヒロインの一挙手一投足が気になり、
世話を焼きまくる。
朝晩、ヒロインの送り迎えに加え、休み時間になると校庭の外の車から
校庭にいるヒロインをじっとみている。
同僚の先生たちはひやかすばかり。
ヒロインが頭にきて、
「変な男が校庭の外から幼稚園をみている、と警察に言うわよ!」

その日、ヒーローはジョギングから帰って、なにげなく
その上からトレンチコートを着てきたので、
コートのしたから素足がのぞいている、なんとも変な格好なのだ。
「寒くないかい?早く教室に入りなさい」
「いい加減にしてよっ」

コートのボタンをはずしだすヒーロー。
え?素足だし、もしかしてコートの下は、、パッとコートを広げ、
ヒロインが慌てる様子をみて、大笑いするヒーロー。
「驚かせた? さぁ、こっちにおいで」
ヒロインの体を一緒のコートに包み、「僕の体をみせたいのは君だけだよ」
なんて言うんだから、もうどうしようもない奴だ(笑)

ま、そういうわけで、ヒロインはヒーローに対して、とても親密で
優しい気持ちを抱くようになっている。
だから、2月になり、自分がせいうちになった気がする、と
イライラしているヒロインがヒーローと口論しているうちに破水し、
出産へと向かうシーンも、それまでの流れで自然と愛を自覚するに
ふさわしい。



翻訳は細かい省略をそれほど感じさせず、上手いと思うのに、
一箇所、気になる場所があります。
それが結婚シーン。
「はやく牧師さまを呼んだほうがいいわ」と言ったあと。
ヒーローの喜ぶ顔をみて、
こんな顔がみれるなら、苦しみに耐えるだけの価値があるわ。
陣痛の痛みと同じくらい強烈な、目もくらむ光が頭の中で輝いて、
彼女は気づいた、「わたしは彼を愛している」。
たとえ彼がすぐに去ってしまうとしても、そんなことは関係ない、と。

そうなの、愛してると気づくのよ、ヒロインは。
それなのに、なぜか翻訳は、赤い部分が無い。
愛は?愛が無いじゃん! このヒロインは、頑なに「愛」を認めなかった、
「愛」を拒んだヒロインなんだから、ここって山場じゃん。
なんで「愛を自覚した」のを省略しちゃうのよ。。。

ここは理解に苦しむ省略なんですよねぇ。