IM-18 美しい悲劇  AGAINST the RULES 

主人公たちはあまり省略されていないが、
脇役はばっさり。
まじめに読み比べたわけじゃないけれど、
邦訳後半のここの部分は、原書で読んでいるとき
心に残った部分だったし、省略量が多いからすぐにわかる。

省略されたのは、牧場監督のルイスと、ヒロインのひねた義理の姉リッキーのエピソードだ。
そう、邦訳を読んだ人にはルイスなんて、刺身のツマにもならないし、
リッキーは最後まで嫌なこまった女だ。
でも原書ではちょっぴり痛々しい。

キャサリン(ヒロイン)が牧場を買いたいと言うモリス氏に会ったことを
リッキーがルール(ヒーロー)に告げ口したあとの部分。

(ルールは現在、足に怪我を負い、2階で養生している)

ルールがキャサリンに怒鳴り、キャサリンはリッキーに
「二度と彼の部屋に入らないで!勝手に入ったら家をでてもらうわよ」と
ルールへの愛を表明する。

料理人ローナに「ルールもわたしも頭を冷やしたほうがいいから、代わりに2階にいってあげて」と
キャサリンは言って、キッチンでぐったりしていると、ルイスが入ってくる。

「仕事がまってるよ、キャサリン」
「働いて眠って彼の世話をする以外エネルギーが残っていないように、
ルールがあなたにわたしをこきつかえって言ってるんじゃないの?」
「疲れてるね」
「どうもこうもぼろぼろよ(パンチドランクよ)」
「ルールが元通り直るまでそう長くないさ。来週には起き上がれるよ」
うんぬん・・・

キャサリンがため息つきながら立ち上がってブーツを履くと
「大都会の派手な女(グラマー)といった外見の下に根っからのカントリーガールがいるんだな」
「グラマーですって?わたしが?」
「もしあんたが男なら俺の言ってる意味がわかるだろ?」
「あら、もしわたしが男なら、あなたはグラマーなんて言いやしないわ」
はっはっは
と打ち解けて、

「ルールとはベトナムで一緒だったの?」と聞くのだ。
「いいや、こっちに帰ってきてから知り合ったんだ」
・・・

ルイスはベトナム帰りであること、話したくないことがたくさんあること、
ベトナムでの辛い体験が結婚生活を壊した、別れた妻は俺をどう扱っていいか
わからなかったんだ、、などと話すのだ。

その晩、2頭の馬が出産する。邦訳では一行で済ませているが
本当は3ページに及ぶ大変な夜で、一頭の母馬からは双子が生まれたのだが、
そのうちの一頭は死んでしまうのだった・・
この出産をリッキーも精一杯手伝い、弱っていく子馬を悼むのだ。
徹夜の疲れきった朝、キャサリンが馬小屋から家に戻ろうとすると、
リッキーがルイスとともに彼の家に入っていくのが見える。

くたくたに疲れていたので一眠りしてからルールと会う予定だったのに、
グレンとの野球観戦デートが入ってしまう(キャサリンはうっかり忘れていた)。
帰宅後、猛烈嫉妬したルールとめくるめく夜があり、その翌日、
死んだ子馬のことで沈むキャサリンを慰めるルール。

んで、そのあとキャサリンは馬小屋に行き、
フロイドに「ルイスを見なかった?」ときくと
リッキーと一緒にトラックに乗って牧草地に行ったという。
そのあと火事騒動があって、混乱が収拾したころにルイスが戻ってくる。
自分を責めるキャサリンに、

「責められるのは俺だ。ここにいるべきだったのに。。」
「I  know」 つま先を見つめながら、何を言ったらいいか
はっきりとしていなかったのに言葉が口にでた。
「リッキーを傷つけないでね。彼女はもう十分に傷ついていて、今また傷ついたら立ち直れないわ」
「傷つくほど本気じゃないさ、彼女は。
俺と遊んでいるだけだ。そして俺もそれにつきあってるのさ。
もし俺が本気になると決めたら、彼女に知らせる。でもまだそのときじゃないのさ」
「男にはそのときなんてものがあるの?」
「時々ね。前に話したように、女は男にとっては習慣みたいなもんだ。
血の中にはいってくる小さなもの、疲れた体をひきずって帰ってきたときに待っている
あったかい食事の匂い、背中がこすれあう感じや笑い声や
けんかもそうかもしれない。
大声で誰かと怒鳴りあって、それでもそいつがあんたを
愛してるってときは、そりゃ特別なんだ。」

「リッキーは2回結婚したが、彼女はいつもお飾りだった。
誰も本気で彼女を必要としたんじゃない。
彼女は自分が必要とされていると感じたことがないんだ。
なぜあいつが馬の世話焼きをするかわかるか?
何か役にたっていると感じられる唯一のことなのさ。
彼女に必要なのは、世話を焼いてあげられる男なんだ」
「あなたがその男なの?」
肩をすくめ、
「俺は長いこと自分のことしか気にかけなかった。
そいつが習慣になっていて壊すのは簡単じゃない。
あんたは俺がその男だと気にするか?」
「なぜわたしが気にしなきゃいけないの?」

なんてしゃべって、あのモリス氏がやってくる場面になる。

そしてそれからクライマックスの有名な懇願シーンになって
ルールとキャサリンは互いにメロメロだということがわかるのだが
(っていうか、こんなにメロメロなのに分からない奴がどうかしてるぞっ)、
メイクラブのあと、来週結婚しようとしゃべっているとき
ルイスとリッキーについての会話も出てくる。

「来週までいてくれるようにモニカ(リッキーの母)に頼んでおいて」
「ルイスがリッキーをここにひきとめるかもしれないわ」
「おせっかいするなよ。彼らはふたりとも傷つきすぎているんだ。
ルイスはリッキーが欲しいかもしれないが、うまくやっていけるとは
俺には思えない。物事は願ったようにいくものではないよ」

あとは原書も邦訳も同じでラブラブでジエンドなんだけど、

リッキーとルイスのスピンオフは、無いんかい?!
って言いたくなるよねーー。
むむ、無いみたいなんだなぁ、これが。
このふたり、ルールの言うように、上手くいかないんでしょうかねぇ。
ちょっぴり切ない脇役のエピソードだったのでした・・・・


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後日つけくわえ
 2005年3月にMIRA文庫から完訳版が出ました。