読書障害 dyslexia HQを読むまでそれほど関心がなかったが、読むうちに 関心が高まったのが、読書障害である。 本好きの中で読書障害ときたら、ルース・レンデルの世にも恐ろしい 「ロウフィールド館の惨劇」を思い浮かべるだろう。 この本がフィーバーした当時の書評では、たいていが「文盲」と言っていて、 わたしも、貧しかったり家庭の事情などで読み書きを勉強しそこなった人、 というようにしか文章が読めない人のことを考えていなかった。 しかし、HQのヒロイン、ヒーローには、いわゆる読書障害と呼ばれる障害を もっている者がけっこう多く、彼らの症状原因もさまざまである。 そして、アメリカではその治療や症状の軽減に いろいろな取り組みが為されているのが伝わってくる。 とあるHQの読書障害のヒーローは、 読もうとしても文字がぴゅっと飛んでいったり、消えたりする。 文字が止まらずに動きまわる。 読もうとするとひどい頭痛に襲われる。 実は地図を読むこともできない。 と言う。 とあるHQの読書障害ヒーローは、焦点の調整に障害があるそうで ページ全体をみることはできるが一行一行読むことができない。 彼は、バランス感覚を養う運動や、メトロノームの針が何回振れたかを 数える訓練をしたりする。 とあるHQの読書障害ヒロインは、左右の判別が苦手で 平衡感覚に問題をもち、くつのひもをうまく結べない。 この本のなかで医者がヒロインに、世界の人口の約20%が この障害で苦しんでいる、というのだ。えっ!5人にひとり?! このヒロインの場合は内耳機能に問題があるそうでビタミン治療が効果をあげる。 最初に書いたヒーローはIrlen Syndromeといい、アメリカで約200万人が この障害をもっていると言われている。(本当?) 視覚細胞、視神経と脳の協調に問題があり、程度の差はあるにせよ、 文字がとまらず動き回ったり 明るいところはとてもまぶしく感じられたり(薄暗いほうがよく読める) 読んでいるところがすぐにわからなくなったり 無理に読むと頭痛に襲われたりする。 そして、この原因は下のように考えられている。 ☆ 視るシステムには、速い信号伝達経路と遅い経路があって、 速い伝達経路は、色を感じず、強いコントラストと動きを感じる。 遅い伝達経路は、色を感じ、弱いコントラストと細かいディテールを感じる。 文字を読むのは、視線が文字を追うのに適した、速い経路が働く。このとき 遅い経路は抑制される。 ☆ Irlen Syndromeの人は、速い経路が働くときに、遅い経路が抑制されず、 視線が動いて次の言葉を読んでいても、遅い経路からの 一つ前の信号が送られていて、速い経路の新しい信号とぶつかり 脳を混乱させてしまう。 脳は矛盾した信号がはいってくるので、勝手に?なんとか処理をしようとする。 これが文字が飛んだり、瞬いたり、動いたりする原因らしい。 障害の程度が軽く、なんとか文章が読める場合でも、実際は脳が必死になって 処理しているから疲れやすく頭痛がおきやすい。 そしてここからが驚くことなんだが、上記のヒーローは色がついたプラスティック板を 紙の上に置いたら、「えっ!!!なぜだ?!読めるっ!読めるぞ!」 そうなんである。 色が助けになるんである。 なぜかはわからないが、Irlen Syndrome の患者によって「適した色」が違うそうだが、 とにかく合う色のフィルターをとおして文字をみると、さきほど書いた「遅いパスウェイ」が 抑制されるそうなんである。 ある波長の光が「遅いパスウェイ」を抑制し、脳は混乱なく情報処理ができるように なるんである。 といっても、本当に絶対正しいのかどうか、、わたしにはわからない。 なぜなら、検索しても日本のサイトには、そのような情報があまり見つからない。 しかし海外のサイトなら、山ほど、Irlen Syndromeについて出てきて、 関心の高さを感じるのだ。 こうしてみると、日本では学習障害、読書障害に対する取り組みが 遅れているように感じてならない。 ネットで「読書障害」を調べてみても、ほとんどが「学習障害」に集約されていて、 脳機能損傷や発達障害のようなものが代表だ。 用語の問題もややこしい。 「失読症」を検索すると、「読書障害」よりも多くの日本サイトにヒットする。 dyslexiaの訳にも、両方載っているので、使い分けがあるようにも見えない。 いずれの言葉を使っても構わないと思うが、ここではdyslexiaを以後使うことにする。 dyslexiaの原因はひとつではなく、薬物、トレーニング、補助器具など治療の取り組みは 様々で、しかも、「そんな治療はまやかしだ」と批判する声もあがっていたりして 統一がとれていないのが現状ではないかと思う。 ある医者は、漢方薬とNASAが使用しているタイプの酔い止め薬を使用した治療を行い、 その治療法に対し、英国失読症協会から非難の声が上がったそうだが、 治療をしている家族は、逆にこの医者を支援している。 また、黄色ガラス板めがねをかけても効果は無かった、と書いてあるページもある。 これまで読んだHQでは知覚障害が原因のdyslexiaが多かったが、 一般的には、脳が「視覚」と「音声」を結び付ける所に問題があるとされている。 つまり、耳で聞いているときは理解できているのに、 耳できいた「でんしゃ」と、目でみた「でんしゃ」が結びつかない。 見た文字映像を、音声イメージと結び付けられないから 「ひらがな」「カタカナ」が読めない。 また、普通、漢字は音でよめなくても意味がわかるが、これは 「文字」->「意味」->「音声」というように脳が処理しているらしい。 この経路と、「文字」->「音声」は違うらしくて、 「電車」を耳で聞く「でんしゃ」に結び付けられず、 「電車」を「ばす」と読んだりすることもあるそうだ。 つまり、意味が近い(交通手段)などの連想なんだが、 「階段」を「げんかん」と読んだり、「警官」を「おまわりさん」と読んだり することもあるそうだ。 このようにdyslexiaは、「知覚理解」のとても深い機能の謎を垣間見せる。 わたしたちは、何気なく見たり聞いたりしているが、 実際は目や耳のうけた刺激が、いくつかの伝達経路をとおって、脳に行き、 脳はそこでいろいろな処理をして、 ようやくわたしたちは見たり聞いたりしてるのである。 小学校で5−10%の児童がdyslexiaではないか、と書いているページもある。 もっと関心がもつべき問題なんだ、とこの頃、HQを読みながら考えるんである。