Let it be the English, but your ain folk
つい最近DIAをまたぱらぱらと読み返して、記憶を新たにしてました。
そして、『あぁ、そうだった、ずぅーーっと意味がよくわからず、
うまく訳せなかった文があったわ、これよこれ。』
けっこう悩んだし、色々ネットで検索しても、どうしてもわからず
諦めて読み飛ばした一行があったんです。
(あはは、わたしの英語能力なんて、そんなもんですわい)
完全に訳せないくせに、好きな場面だったので、それこそ
嫌っちゅうほどそこのとこを考えているうちに、ふっと目の前の霧が
晴れた気になりました。
それは、こういう場面です。
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いきりたったドゥーガルとの争いを余儀なくされ、
クレアを守るため、ジェイミーは彼を殺してしまう。。
マッケンジークランの者(ウィリー)に殺害を目撃され、もう腹をくくるしかない。
皆に口外するのを一時間待ってくれ!頼む。
妻を安全な場所に連れて行ったら、必ず帰ってくる。
ジェイミーの形相に押され、何もいえないウィリーに念をおし、
いそいでその場をあとにするふたり。。。
ラリーブロッホの相続権を姉の子に譲る証書をしたため、
ファーガスに渡す。これをラリーブロッホに絶対に届けるんだぞ。
そしてマータフに言う。
(DIA Dell PB版882ページより引用。 日本語訳は拙いですがわたしです)
"And you -mo caraidh- I need ye to gather the men."
Murtagh's sketchy brows shot up, but he merely nodded.
"Aye",he said. "And when I have?"
Jamie glanced at me, then back to his godfather.
"They'll be on the moor now, I think, with Young Simon.
Just gather them togather, in one place. I shall see
my wife safe, and then -"
He hesitated, then shrugged.
"I will find you. Wait my coming"
『友よ、ラリーブロッホの者たちを集めておいてくれ』
マータフは眉をぴくりと上げたが、ただうなづいた。
『わかった。で、いつ会える?』
ジェイミーはわたしをさっと見たあと、視線を名づけ親に戻した。
『村の者たちは、ヤングサイモンと一緒にいまカロデンの原にいる、と思う。
一箇所にいてくれたらそれでいい。俺は妻の安全を確かめたら、、』
言いよどんで、ふっと肩をすくめた。
『絶対におまえたちを見つける。俺が戻るのを待つんだ』
Murtagh nodded once more, and turned to go. Then he
paused, and turned back to face Jamie.
The thin mouth twitched briefly, and he said,
" I would ask the one thing of ye, lad -
let it be the English. Not your ain folk."
Jamie flinched slightly, but after a moment, he nodded.
Then, without speaking, he held out his arms to the older
man. They embraced quickly, fiercely, and Murtagh, too,
was gone, in a swirl of ragged tartan.
マータフはもう一度うなづき、くるりと背を向け、行こうとした。が
立ち止まり、振り向いてジェイミーの顔を見た。
薄いくちびるをちょっと引きつらせ、そして言った。
『ひとつ頼みを聞いてもらえるか、坊主、
あやめる敵はイングランド人にしてくれ。お前の同胞はごめんだぞ』
ジェイミーは一瞬身じろいだが、黙ってうなづいた。
そして、黙ったまま、年上のこの男に向かって手を差し伸ばした。
二人はすばやく、荒々しく、抱き合い、そして、
マータフは行ってしまった、ぼろぼろのタータンを翻して。
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マータフらしい、ぶっきらぼうで、皮肉めいて、でも
ジェイミーを心から心配している、そして実は命をなげうっている
そういうセリフだな、って思いました。
彼はジェイミー・フレイザーがドゥーガル・マッケンジーを
殺してしまったことを一言たりとも、非難したり質問したりしません。
そういう男です。
部下たちを集めろ、と言われたら、何のために誰と戦うのか、
知らなくてもジェイミーの指示に従うのです。ジェイミーを信じて。
マッケンジークランの長を殺したからには、ジェイミーは
マッケンジー一族から追われる敵になってしまった。
ジェイミーはフレイザー出身の父とマッケンジー出身の母を持つので、
お前の同胞というのは、マッケンジー一族を指している。
明日はもちろん、カロデンの戦いの日。イングランド軍との死闘が待っている。
ジェイミーはクレアから聞いて知っているが、もはや歴史上の日にちを
知らなくても、戦いの火蓋がもうすぐ切り落とされることは明白だ。
でも、でも、マッケンジーとの戦いもありうる、、
そういう心配をしているマータフの心のうちを痛いほど感じる最後のセリフです。
「ごめんだぞ」、そう言っても、彼はきっと、いざ戦わざるえなくなったら、
ジェイミーとともに戦ってくれるでしょう。
一方のジェイミーも、同族内の争いにマータフやラリーブロッホの者たちを
まきこみたくなんかない。
すまないっ! わかってる、戦う相手はイングランド軍だ。だが、
もしマッケンジーの者たちが俺を襲ってきたとしたら、手出しは無用だ。。
ジェイミーもマータフもただ、黙って、荒々しく、抱き合い、
カロデン前夜の、男と男の別れとなる・・・
。。。。。。。。。。。。
ところが、墓標3ではここの部分は以下のとおりです。
> 「おまえにひとつだけ言っておくことがある、ラッド---敵にまわすのは
> イングランド人だけにしてほしかった。同胞まで敵にまわすとは」
むーふむ。。ジェイミーがドゥーガルを殺したことを非難してるの?
いや、非難ってほどきつくはないにしろ、とにかく、ドゥーガルを殺して
しまったことを、やや説教じみて言ってる感じだわ。
でも「ひとつ頼みごとがある」って言ってるわけだから、
イングランド人だけにしてほしかったは、日本語としても変。
「イングランド人だけにしてほしい」と訳すべきですよね。
原文(赤い所)をみれば、レット・イット・ビー と現在形ですもの。
「同胞まで敵にまわすとは」、、そんな、苦々しい言い方、マータフはするんだろうか・・・
マータフはこんなふうに繰言を言うハイランダーじゃないはず。
ぼそっと、ぶっきらぼうだけど、肝心なことだけを言うんじゃないかなぁ。
それに、ただ同胞と訳してしまうと、まるで「スコットランド人」を指しているみたいだけれど、
ここは「我々の同胞」といわずに「your ain folk = お前の同胞」とマータフが言っていることに
注意すべきで、「マッケンジークランを敵にまわすとは」って意味なのよね。
(マータフはフレイザークランなのだ)
だから、お前の同胞と「お前」を省略すべきじゃないと思うの。
もし省略するなら、思い切って「マッケンジーを敵にまわすとは」と訳すくらいのほうが
よかったんじゃないかな。
不注意な訳文も嫌なんだけれど、それ以上にマータフのひととなりが、
マータフのキャラクターがなんだか変わってしまうのが残念だし、
これでは明日の戦いを前にしてのマータフのジェイミーを思う気持ちが
あまり伝わってこない・・・
それがね、なんていうか、悲しいんです。
アウトランダーシリーズでの、マータフ最後のセリフなんですよ。
もっと大事にしてほしかったわ・・