The Warrior Apprentice 「戦士志願」の翻訳疑惑箇所
気に入った作品だと、どうしてか、不自然で変なトコが目についてしまう。
こんなつじつまの合わないセリフを言うかなぁ、、と、ひっかかってしまう。
重箱の隅をつつく、というより、好きな本の名誉挽回をしたくなってしまう。

「背景」
エレーナの出生の秘密が明らかになった。
エレーナの母にとってエレーナは忌まわしい過去の象徴。
娘の顔を見るだけで苦痛が蘇る。

一方のエレーナは、自分を憎んでいるように避ける母を渇望の目で見る。

マイルズはエレーナの母とふたりきりで会う。
演技でもいいからエレーナに温かい言葉をかけてやってほしい、
自分の両親について聞いてきたことが嘘まみれだったと知り、何もかも汚されてしまったエレーナに何か残してやってほしい、
そうマイルズは思ってる。

----ココカラ----翻訳そのままを引用

マイルズはエレーナの母に言う 「少なくとも、彼女が奪われたものの代わりになるものを、
みつけてやらないとね。ほんの小さな慰めでも」

「あの子が失ったものは幻影にすぎませんよ」

「幻影、、、」彼は考え込んだ。
「あなたも長いあいだ幻影で生きてきたとはいえませんか」と彼は示唆した。
「こんなことがなかったら一生幻影を見続けていたかもしれない。
ほんの2,3日、でなければ、2,3分でも、わずかなことをするのが、
そんなにむずかしいことですか?」

---ココマデ-----

こんな変な会話、翻訳者さんも、訳していてヘンだと思わなかったのかなぁ。

"An illusion..." he mused.
"You could live a long time on an illusion," he offered. 
"Maybe even a lifetime, if you're lucky.
Would it be so difficult, to do a few days-even a few minutes-of acting?

You could live ..... if you're lucky だから、「あなたは生きることができた」という過去形じゃなくて
仮定法の「人は 〜ならば 生きられるでしょう」って訳した方が自然な文章になる。

 (わたしの訳)
マイルズはエレーナの母に言う 「少なくとも、彼女が奪われたものの代わりになるものを、
みつけてやらないとね。ほんの小さな慰めでも」

「あの子が失ったものは幻影にすぎませんよ」

「幻影、、、」と彼はつぶやいた。
「人は幻影ひとつあれば長く生きられるものなんですよ」と彼は口にだしてみた。
「たぶん、運がよければ一生でもね。
ほんの2、3日、いやほんの2、3分でいいからフリをすることが、
そんなにむずかしいことですか?」

acting を フリをする、って訳したのはわざとです。
「2,3分でも、わずかなことをする」と翻訳者さんが訳したけれど、
acting をもうちょっと強調したみたかったからです。

結局、原文は、マイルズがエレーナの母に、「本当は娘を愛している」という幻影を
エレーナに2,3分でもいいから見せてやってくれ、と頼んでいる素直な文章でした。
辛い経験をして20年近く悪夢と戦ってきたエレーナの母親にたいして
「あなたも長いあいだ幻影で生きてきたとはいえませんか」 なんて言うほうがオカシイですよね。