Older Woman SSE-1445 シェリル・レビス  ざっとあらすじ
落下傘部隊の分隊長カルビン・ドイルは、ヘリコプターブラックホークの墜落事故で
生き残ったふたりの内の一人だ。
とても助かるまい、と思われた大怪我で、助かったとしてもとても歩けるようには
なるまい、と思われたほどの損傷だったが、事故から2年、11回の手術を経て
ようやく通院によるリハビリとなった。

彼には戻る家がなかった。
病棟の婦長キャセリン・ミーハンの紹介で、ミセス・ビーの住むビクトリア様式の
家の2階を借りる事になった。
ミセス・ビーは長年学校の教師をしてきた人で、夫は既に他界していた。
アルコールとたばこはだめ、お行儀よくしなくちゃだめよ、と入る前に言われて
当初は緊張したが、祖母を思わせる優しいいたわりをみせる老婦人だった。

彼は絶え間ない足の痛みに苦しみ、親友2人をあの事故で亡くしたことを悔やみ、
リサに失恋をして(「遠い故郷」参照)、2階への階段をのぼるのもやっとという日々をおくっている。

いつも見るとはなしに、隣家のミーハンの家を眺めてしまうのが習慣だった。
ある雨の日、彼女の家からボーイフレンドが出て行き、
ミーハンはそのあと、ずっと庭のベンチにすわっていた。
雨は降り続き、ミーハンはまだ座っていた・・

一体彼女はなにをしてるんだ、いや、やめろ、お前には関係ないことだ。。。
窓の外を見ないようにしようと思いながらも、見てしまう。

「カルビン、 ケイティに家の中に入るように言ってきてちょうだい」
ミセス・ビーも窓の外に気付いていた。
カルビンは老婦人の頼みを断る事ができなかった。
「はい」
「いい子ね」

松葉杖をつき、よろよろとゆっくり歩きながら、ようやく隣家の庭まで行く。
傘を差し出したまま、黙って立っているが、ミーハンは身じろぎもしない。
そのまま、時間が流れ、カルビンは足が痛み、もはや立っていられそうもない。
「ほっておいて。」
「ミセス・ビーに言われて来たから戻るわけにはいかないんだ。」
。。。
結局カルビンはミーハンの肩につかまり、長い距離を歩けそうもないので
彼女の家に行く。

電気ひざかけをかけてもらうと、驚くほど痛みがひく。
コヨーテに一家全員を殺されて運良く生き残った子猫がカルビンのそばにやってくる。
静かな会話。
暖かな部屋とひざかけとネコの手触り・・
彼はソファで久しぶりにぐっすりと寝てしまった。

翌朝目が覚めると彼女はもう仕事に出かけていた。
ブザーの音に出てみると、ボーイフレンドがテイクアウトの袋を持って立っていて、
カルビンはわざと誤解されるような受け答えをしてしまう自分に気付くが、
少し楽しくなってしまう。

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こんな風にはじまる二人の物語は、
カルビンの視点で最期まで語られる。

ミーハンはお礼に彼を食事に連れてゆき、カルビンは久しぶりに外にでて楽しい時を過ごす。
だが、翌日からはまた、何事も起こらなかったかのように日々が続く。
彼はミーハンの家を窓からしょっちゅう覗いてしまう。
これじゃヒッチコックの「裏窓」みたいじゃないか、なにをやっているんだ、俺は。

別れたと思ったボーイフレンドが彼女の家に入っていくのを見ると、
嫉妬のような気持ちにかられる。
なんだよ、よりを戻したのかよ。。

人はそれぞれの生き方で生きていて、愛してくれない人をふりむかせることはできないのだ。
もしそんなことをしようとすれば打ちのめされるのが落ちだ。
離婚直前に生まれ、母親と姉に疎んじられた幼少時代、
祖父母のもとにおくられ、幸せだった子供時代、
そんなことを思い出していた。

足は変わらずに痛む。。重い疲労でベッドにいくのも億劫だ。

「目を覚まして!どうしたの!」
「え?一体・・・」

どうやら悪夢で叫んだらしい。
驚いたミセス・ビーが部屋のドアをあけようとしたが、ドアを押さえる格好で
床の上に彼が寝てしまっていたので開けられなかった。
心配したミセス・ビーは、ミーハンを呼んだ。
彼女は別の部屋の窓から屋根づたいにやってきたという。

「屋根を歩いてるわたしの姿をみせたかったわ。」
「あぁ。」

「いつまで自分のことを許さないつもりなの?」
「え?何のことだ。」
「生き残ったことよ。」
。。。。
「すると、おつぎはこれかい? すべての物事には理由があるって奴か?」
「たぶんね。」
ふんっ
だが、なぜだか、大声で泣きたい気持ちになった。
まるで小さい子供のように泣き出したい気持ちになった。
だが子供のときだって、泣いたことなどなかったんだ。

「大丈夫?」
「あぁ。シャワーを浴びてるところだったんだろ?邪魔をしてすまなかった。」
「いいのよ。」
「なぁ、、また食事に行かないか?」
彼女は悲しそうに微笑んで、首をふった。
「ノー。」
にべもない答えだった。

翌日、仕事から帰宅するミーハンをずっと庭で待っていた。
「ヘイ、訊きたいことがあるんだ。」
「言って。」
「きみとベーグル男は続いてるのか?終わったのか?」
「終わり。」
「OK、それじゃあ俺と食事にまた行かないか?」
「昨日もう答えたはずよ。ノー。」
「なぜ?」
「なぜ?理由がなくちゃだめなの?
あなたはわたしなんかじゃなくて、友達と・・(親友があの事故で
死亡したことを思い出し、言いよどんだが)、誰かほかのひと、
兵隊仲間を誘えばいいじゃない。誘えば喜ぶ女の子だっているわよ。」
「いや、軍関係の仲間と一緒だと、必死にタフにみせかけなけりゃならないし、
女の子じゃ、行儀よくふるまわなくっちゃならない。でも、君となら
俺の最悪なところを知ってるし、怪我のこともリサのこともなんでも
わかってるし、とても楽なんだ。」
「・・・ベビーシッターってわけね。」
「ちがう!友達だよ。このあいだはとても楽しかったじゃないか、そうだろ?」
「ええ。」
「それじゃ、OK?」
「ノー。」
。。。

数日後、カルビンはミセス・ビーからミーハンが3年前に乳がんの
手術を受けた事をきかされる。
庭で花々の手入れをしているミーハンを訪ねるカルビン。

「また質問?」
「どうして俺と一緒に出かけないって言うんだ?」
「わたしはあなたよりずっと年上よ。年齢の違いは大問題なの。」
「俺にはそうじゃない。 なぁ、これは俺だからってことか?
それとも友達を選ぶのにいつも年齢制限をつけてるってことか?
俺はきみが好きで、きみも俺が好きだと思ってるんだが、何が問題なんだ?」
「バグズ、わたし、こんなこと話していたくないの。」
「俺がいつ生まれたかって事、俺にはどうしようもないんだぜ?」
「バグズ・・」
「いや、ちょっと、最期まで言わせてくれ。 もし本当にきみが俺のことを好きじゃなくて
うんざりして、一緒にいても楽しくないって言うんだったら、そうだな、しかたがないよ、
もう邪魔をしない。
でも、もし君がガンだとか、他の事が理由で俺と出かけないって言うんだったら、
それは別のはなしだ。」
。。。。

「どう思う?」
「あなたは、わたしのパンツの中に手を入れたいってわけね」
ぶっきらぼうに言うと、彼は大きな声で笑った。
「きみのパンツは安全だ。誓うよ!」
にやにやしている彼をみて、彼女は少しもそんな言葉を信じなかった。
「いずれにしろ、君は、走って逃げられるさ」
「確かに」
「それで?」
「何も」
何も、か。。でもノーよりはましだ。

夫に浮気されて、悩みや愚痴をミーハンにこぼしにくる妹の話。
その息子スティーブの話。
(宝物の石をスティーブがカルビンに見せるエピソードは、もうね、秀逸と言うしかないヨ)
カルビンを愛してくれなかった母親や姉と、カルビンを愛してくれた祖父、祖母の話。
さまざまなはなしが、この物語をリアルなものにしている・・・

第2次大戦でノルマンディに出征したミセス・ビーの恋人をしのんだ食事会のあと
疲れたから先に休むというミセス・ビーの家で
黙々とお皿を洗い、お皿を拭き、、そしてふたりはダンスをする。

相手の気持ちや苦しみが、こんなふうに分かるって、
どうした奇跡なんだろう。 
そう思う瞬間がある。

もはや、カルビンにとって、ミーハンはケイトになっていた。
ケイトは、彼をもうバグズとは呼ばず、ドイルと呼んでいる。
ケイトの姉妹(2人の姉と1人の妹)がやってきて、バーベキューをするから
食べに来てくれとカルビンに言う。

「変なことを言ったりしないでね。わたしとあなたの間には何もないんだから」
「そうなのか?」

バーベキューの準備中、ひとり来ては、またひとり、あんた一体どういうつもりなの?とばかりに
勢い込んでやってくる姉妹を前に、カルビンは毅然とした態度をとり続ける。

そしてキッチンで彼はケイトにキスをする。
「これは終わりか、始まりか、だ。」

翌日、病院から呼び出しがあり、一日中検査のあと、カルビンに再度足の手術を
うけたほうが良いと医者は勧めた。
あの苦痛、もう一度いちからやり直しになるという不安、、一ヶ月以内に心を
決めなければならない。
長い一日、疲労と空腹と足の痛み、もはや立っていられないほどだが、彼はケイトの
いる病棟に向かう。

ケイトの仕事が終わるまで待って、帰路につくまでに交わされるふたりの会話は
言葉少ないが静かに心のなかにはいってくる。
夜食事を一緒にケイトの叔父のバーでとり、ケイトにからんだ若者の腕をカルビンは
ねじりあげてしまう。

「ごめん、トラブルは起こさないという約束だった。」
「あなたがあの子にしたことを怒ってるんじゃないわ。そうじゃなくて、
あなたが手を出したのが嬉しかった自分に怒ってるのよ」
「よくわからないが、ま、いいさ。」
「どうしたらいいのか、わからないの、それが嫌なの。」
「何のこと?」
「あなたのことよ!」
「そんなに難しいことか? 簡単だぜ。 このまま俺を連れて帰るか、それとも
ヒッチハイクでもしろっ、と置いていけばいいんだ。」
「ね、あのとき、なんていおうとしたの? わたしはあなたの何?て」
「ファンタジー。 きみは俺のファンタジー」

「そのファンタジーっていうのはどこで起こるの?」
「さぁ」
「それじゃ、いつ?」
「さぁ」

ぶっきらぼうに会話するケイト、目を合わせようとしない。

「コンドームは持ってる?」
「いいや」
「問題ないわ。家にあるから、、なに?」
「なにも」
「OK、それじゃ」
歩き出そうとするケイトの手をつかむ。
「そのまま」
「なに?」
「そこで止まって」
「なぜ?」
「動かないで。 言いたいことがある・・」
松葉杖を離して、ケイトの肩に手を置き、瞳をのぞきこんだ。
「やめてくれ」
「やめてくれってなにを?」
「やめてくれ、まるで仕事かなにかのようにふるまうのは。
これが俺にとってたいした意味もないかのように、ふるまうのは。
俺は長いこと君を思ってきた。もし寝ることだけが望みならば、
どこか他所へ行っていたさ。わかった?」
「・・」
「わかったかい?」
黙ってうなづいたが、少しも幸せそうではなかった。
「そんな顔をしないで。俺がまるで生涯で出会った最悪なもののような顔をしないで」
「最悪よ」
「違う。そうじゃない。俺たちは、俺と君は、ずっといいものだよ。
さぁ、準備はいいか?今からキスをするぞ。パニックになるなよ。」
「わたしは一度もパニックなんかになったことはないわ」
「よし」 腕を体にすべらせると、彼女はカチカチになった。
「だめだ、君は逃げ出しそうだぞ」
「違うわ」
「いや、そうだ」
「OK、・・・ そうなの」 
「目をとじて。ほら、目を閉じるんだ」
彼女が目を閉じたとき、彼はやさしく額にくちづけをし、こちらの頬にひとつ、
もうひとつこちらに。。

( うひひ、すてきです (^m^) 
乳がんの手術痕をやさしく撫でる指先、、胸きゅんです。)

数日間、ふたりの幸せな日々は続く。
ケイトはカルビンのことをカルと呼ぶ。
悪夢にうなされるカルビンは、ケイトのぬくもりで癒される。
が、ケイトの帰宅が遅かった日、素晴らしい夜をおくった翌日に
ケイトは別れを切り出した。。。
昨日の夜、、あれはお別れのプレゼントだということか?
何がいけなかったんだろう。どうしてなんだろう。
うちのめされた気分で閉じこもるカルビン。一方ケイトも職場を休んでいた。

ケイトを探すカルビン。病棟のひとりが、あの日ケイトがX線室に行くのを
見たという。
そういうことだったのか。。。

探し回り、ようやくケイトの居場所を見つけ出したカルビンは。。。

これだけ、これだけは言いたくて、君を探したんだ。
聞いてくれるだけでいい。だがこれだけは言わせてくれ。。
。。。。
他の人たちが俺たちのことをどう思おうと俺は気にしない。
俺は年の違いなんて気にしない。
きみがいくつかなんて知ってるよ。
それに、俺たちがそれぞれ傷の痛みから立ち直ろうとしていたときに
この関係が始まったってことだって気にしない。
俺はたぶん、ガンが再発することは気にしている。そのことはものすごく
心配してる。でも、それは、きみを愛しているからだ、ケイト。
そうだ、これが俺の言いたかったことだ。
きみがこんなこと聞きたくない、とか、正しいとか、間違っているとか、
都合いいとか、そんなこと、関係ないんだ。
愛してるんだ。冗談がすぎるってか?

きみが俺たちの関係をあんな風に壊したことは、俺にはひどくこたえたよ。
きみにとって俺は何だったのか、きみは俺のことをどう思っていたのか、
それが分かったから。
俺は一緒に立ち向かっていけると思っていたんだ。
きみは俺のことを心配してくれていたが、俺のことを信頼もしてくれていると
思っていたんだ。
干し草の上でごろごろとよろしくやってる以上のものが、俺たちの間には
あると思っていたんだ。でも間違ってたんだな。

「カル・・」

俺にはわからない。なぜきみは君に起こっていることを俺に言ってくれなかったんだ?
俺はまぬけすぎて、きみがどれほど恐がっているかわからないと思ったのか?
ケイト、きみはとても恐がっているだろ。俺もだ。
きみには何も起こってほしくないさ。
俺は思い上がっていたんだ、こういうことが起こったとき、きみを少しは
助けることができるんじゃないかって思ってたんだ。
俺が苦しんでいたとき、君がそばにいてくれただけで俺はずいぶん
楽になった。だから、同じことができると思ってたんだよ。

あの夜、シャワーの途中なのに俺を助けにきてくれた夜、
きみは言ったな、自分を許せ、とかそんなことを。
すべてのことには理由があるってきみが言いそうだったから、俺は腹をたてた。
なぜなら、他の仲間が死んだのに俺が生きている、そんな理由なんて
分かるわけが無い。
だけど、今はこう考えてる。
たぶん理由はあるんだろうって。
たぶん生き残って、ここにいるのは、きみのためなんだろうって。
どう思う?ケイト、こんな思い上がりを。

俺はきみのへたれな元亭主とは違うし、他の誰とも違う。
俺はきみがそれをわかってると思ってた。
今、きみがこういう時に、俺があげられるものを何もほしくないって思ってるなんて・・
それが俺にはたまんないよ。。

。。。
生検の結果がよいことを祈ってる・・・。

カルビンは一度も振り返らずに車に乗りこみ、家に戻ってきた。。


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この物語は、普通の意味で言うところの100%のハッピィエンドではない。
ケイトは乳がんの再発のおそれがあるし、
カルビンはまだ足が完全に治ったわけではない。
それでも、こんなことを一生に一度、言ってもらったら、あとは何が起こってもいいな、
なんて、思ってしまったわたしだ。

ふたりの物語はこの会話のあと、まだ一章があり、さらにエピローグがある。
ケイトはカルビンにどう答えるか、
カルビンはケイトをどう受け止めるか、
エピローグが、これまたとても優しい。。。