TESS GERRITSEN テス・ジェリッツェン(ガリットソン ハーレクイン時代の邦名)
ミニレビューはこちら
外科医を読んだ人なら、ジェイン・リゾーリが気にならない人はいないだろう。
ハッキリ言って、わたしは主人公たちよりも、この脇役刑事リゾーリに心惹かれ、
作者がこのリゾーリを書かないはずはないっ!、と思ったら、、嬉しいじゃないか、書いていた。

男社会のもっともたる警察機構で、上手くやる、とか、歩み寄るという事を知らないこの女刑事は、
可愛げが無いし、化粧っ気がないし、遠慮が無いし、社交的でもないし、
あまり教養も無いみたいだし、強情で、、、でも、火の玉のように犯人を追い続けるハンターで一途で。。

知的職業の美人ヒロインが多いなか、汗と足で稼ぐブルーカラー・ヒロイン、リゾーリは
モロさを人に見せたら負けだ、という信念で生きている。

さて、The Apprentice 
ここでは味のある脇役がずらっと登場し、今後、この舞台を続けていくんだな、と予感させる。
話は「外科医」から、一年経ったところ。
新たなシリアルキラーが登場する。The Dominator
美しい妻を持つ幸せな夫婦の寝込みを襲い、夫の目の前で妻を犯し、その後夫を惨殺し
女を連れ去る。そして数日後、発見された死体には死姦のあとがある。。

こんな風に2行にすると元も子もないが、実際はQueen of the Deadと陰で呼ばれる監察医
モーラ・アイルズと助手ヤシマ、刑事リゾーリと相棒のフロスト(尋問部屋で容疑者にこいつは
おれの親友だと思わせることができる唯一の男 笑)、Newton市警のコーザクなどの地道な奮闘が
描かれ、途中からそこにFBI捜査官ガブリエル・ディーンも加わる。

リゾーリは最初からこのDominatorの犯行にホイト(外科医)の影響を感じとるのだが、
コーザク以外はそれをまともに受け取らない。だが、厳重な警備の刑務所にいたはずの
ホイトが脱獄に成功し、数日後にはDominatorの犯行に明らかなホイトの脚色が見られるのだった。
しかも、その犯行はリゾーリに向けられたメッセージでもあった。

3組の夫婦の殺害事件が捜査されるなかで、コーザクやフロストの人となりが伝わってくるが、
エイジェント・ディーンは謎な存在で、上層部からの命令で捜査に加わり、いつしか
主導権を握ってしまうが、自分の手の内は見せようとしない寡黙冷静な男で
リゾーリをいらいらさせる。

さらにここに神経生理学者のDr.ジョイス・オドネルが登場する。
彼女はサイコキラーの弁護で有名な学者で、受刑中のホイトとも文通をしていた。
交わした書簡を調べるリゾーリとディーン。ここにもまたホイトのワナが隠されてあった。

リゾーリは恐怖にどんどん追い詰められていくが、決して恐れを人に見せない。
恐いと感じる自分をなによりも嫌っている。

Dominatorの正体は、CIAに協力した陸軍特殊部隊兵士の一人で、コソボで多くの
虐殺をした疑いがかけられた男だったが、紛争終結とともにうやむやになった男だった。
CIAは資料を渡そうとせず、人相も年恰好もわからない。。
一体全体どうやってホイトとDominatorを捕まえればいいんだ・・・

いやいや、この話は、犯人追いゲームじゃない。確かにホイトとDominatorのタッグなんて
最強だよっ、とんでもないよっ。
だが、ごめん!どうなるんだ〜と進行を楽しみにしていた人は肩透かしを食らうかも。
少々トリックがご都合主義だし、あっけないラストを迎えるし、納得いかない点もあるし
更新の記録(2005年10月28日)に書いたようにミステリーサスペンスとしては
一級品とは言えないだろうなぁ。。

っていうか、これをミステリーサスペンスとしてしか読めない人は損してると思うよ。
これはベタベタしてないロマンス、主眼は謎よりも女の生き様っていうか、リゾーリが
どんな風に自分の恐れ、自分の弱さを男に見せるか、自分の女性という部分と折り合って
ゆくか、刑事リゾーリの行く末をずっと読んでいきたいと思わせる本で、彼女が
ほんのちょっとだけ、心を許す瞬間なんて、胸きゅんなんだなぁ。
女だからこそ、いつも張り詰めているリゾーリに、無敵である必要はないというディーンが(^m^)。

しっかしディーンってのは実際のところ、全く謎なんだ。う〜ん、、
動のリゾーリに、静のディーンなんだが、水と油というか火の玉リゾーリに氷のディーン。

嬉しいのは、ディーンとの間でちょいと色々あったけれど、最後まで事件はリゾーリが
自分でカタをつける。普通なら、ここでディーンが助けに来る、ってところで来ない。
来ないんだよ〜。
リゾーリが一人でがんばらなくちゃだめなんだ。
そこがいいんだよ〜。


------------------------
「The Sinner」
夏の事件だったDominator、今の季節は冬、12月のボストン。
修道院で起きた惨殺死体から話が始まる。

リゾーリ、フロスト、モーラ、お馴染みのメンバーが事件の真相に迫る。
監察医モーラはボストンに来て一年半。それまではサンフランシスコの大学で
医学生を教えていた。今回はモーラの過去が少しずつ語られる。

3年前に離婚した相手は、国境の無い医師団に身を捧げる熱血医ヴィクター。
貧困と戦争の犠牲者たちのために世界をまわり、医療の手を差し伸べ、家庭に落ち着くことなど
罪だと言わんばかりの日々なのだ。彼の理想、情熱を素晴らしいと思いながらも、
子供を育て温かい家庭を築きたいと願うモーラ。
結局、愛と仕事の引っ張り合いに疲れ果て、別れを選んだ二人だった。
そんなヴィクターが3年ぶりに帰国し、数日だけボストンに居られると言う。
数日だけ。

死人は生きている者と違って誰も傷つけはしない、というモーラ。
妊娠してしまったことを悩んでいるリゾーリ。
底に流れるモチーフは似ている。 いずれも生きることに真剣な女性が、愛を、男を
どう受け止めるか、傷つけあう現実と理解しあう理想のはざまでもがいている。

リゾーリは今回、ぐっと癒される。
彼女の家庭はちょっとね、「外科医」を読んだ人ならわかるだろうが、ひどいんだ。
愛されてないって感じだったんだが、、、なんと、いい話なんだよ。ちょいと泣けるんだ。
で、産む決心をして、それをディーンに告げる。
赤ん坊を産むか産まないか、悩んで悩んで、でも、ディーンに一言も打ち明けずに、
これは自分の問題だと、男の介入を拒否していたわけだが、

きみの問題は、目の前に選択肢があることに気づいていないってことだ。
 気づいたわ。だからあなたに伝えたし、赤ん坊を産むって決めた。
違う、赤ん坊のことを言ってるんじゃない。
俺を選ぶんだ、ジェイン。
 何を言いたいの?
一緒に力をあわせることができるってことだよ。俺をその鎧の中に入れろってことだ。
きみを傷つけられるほど俺を近寄らせろ。俺も、きみに傷つけられるほど君を近寄らせるから。
 は! しまいにはわたしたち傷だらけでボロボロね。
いいや、お互い信頼できるようになるかもしれないぞ。

なんちゃって、、ガブリエル・ディーン、君は全く謎だが格好よすぎだっ!

で、事件のほうは、、、予想しなかった展開に進む。

修道女2人の惨殺と、掃き溜めのようなところに放置された死体、そして
銃殺された国際化学メイカーの重役。
ヴィクターが3年ぶりにモーラに電話をしてきたのには隠された理由があった。
すべてが、インドで起きた大型化学プラント事故に端を発しているのだが、
大義のためには、少数の命などは黙殺されるものなのか。
命の重さに違いはあるのか。
医療とコストの問題は理想だけではどうにもならない。お金がなくては医薬品も水も買えない。
だが・・・
遠くに目を向ける者と、手元に目を向ける者。
生者を救うものと、死者を救うもの。

Dr.モーラ・アイルズの凛々しい孤独がほんま泣ける。


------------------------
「Body Double」
季節は夏である。
モウラがパリでの学会から帰国すると、自宅の前が騒然としている。
そして、モウラが近づいて行くと、まるで幽霊でも見たかのように
彼女の顔を見て驚く捜査員や隣人。。

養女であったモウラにとって思いがけない双子の姉妹アンナとの対面、
それは冷たくなってしまったアンナの体と遭遇する悲しい始まりだった。

アンナの死をめぐる謎。数年来被害を受けているストーカーによるものなのだろうか。
アンナを親身になって助けていた刑事が、今度はモウラを守ろうとやってくる。

1つ目の事件は思わぬ別の事件とつながる。モウラは自分が養女である事は
知っていたが、実の親の情報は皆無だった。だがこの事件の捜査で実の母親が
殺人を犯して刑務所に収容されている事実を知る。

シリーズ3作目は、「親子」「家族」「絆」が大きなテーマである。
自分を形作るものとは何だろうか?
子供を産むとは一体どういう意味を持つんだろう?

事件の真相を求める探索と、自分という存在を探る探索。
ジェリッツェンは、事件捜査を縦軸にしながら、モウラやリゾーリの
内省の深まりを常に描きつづけている。
今来た道で立ち止まり、振り返り、一歩前進し、大地を踏みしめる彼女らの
姿は、時に孤独で厳しく、泣かせるものがある。

さて、プロローグで紹介された事件が一体いつどこで本筋とつながるのか、と
読んでいると、思わぬ事件の展開に驚く。そしてその驚きは最後の最後まで
読者を飽きさせない。
あぁ、そうだったのか・・・

Dr. Maura Isles が受け止めるものが重過ぎて、とても辛い。
彼女は、ベッドのぬくもりを恋しく思う柔らかい部分と、神の万能を
信じない知性の硬質なコアが、共感を覚えずにいられない人となりを
形作っているんだが、幸せに遠い(涙)。
Maura の人生はこれからも厳しいんだろうなぁ。

そして、Jane Rizzoli はどんどん人間的な厚みを増している。
妊娠8ヶ月の体をはって事件を追う殺人課刑事。自分の体の変化、環境の変化と
まだ折り合いがつかないリゾーリが、否応なしに自分の体内で成長する子供という
別の存在と向き合いながら、一回りもフタ回りも成長する。
ガブリエルは、今回ほんのちょこっとしか登場しないが、
わずかなセリフだけでおいしい役どころをさらう。
子供が生まれた後のこの二人をどう描いていくか、今後も気になる。


------------------------
「VANISH」

テスの医療ミステリを期待する人はきっとがっかりするだろう。
わたしはこの話が大好きだが、ミステリというよりも「The Apprentice」に近い
女性の生き様ドラマをメインにしている。
でも、「The Apprentice」よりずっと出来がよく、まさにタイムリーな問題提起を
味わい深いエンターテイメントに仕上げてくれた。ナイス!

民間の軍事保安支援会社、戦争のアウトソーシングに対する問題提起がコアだ。
そこに政府のテロ対策や、横行する人身売買や、ジャーナリズムの良心などを絡め、
警察や司法局の地道な日常をスリリングにかつ現実的に描いている。

中心になるのは、親になりたてのリゾーリとガブリエルである。
これは彼らの「一ヶ月」物語でもある。

出産後の最初の「一ヶ月」ってのは、ほんと、シビアなんだよねぇ。
里帰りなどせず、夫婦ふたりだけで乗り切ろうとすると、これ、ほんとに
しんどいんだ・・。
そういうときに誰かが 「一ヶ月だってば。この一ヶ月を我慢すれば、あとは
嘘みたいに楽になるんだってば」と言ったとしても、
「自分のことじゃないからそんな風に気楽に言えるんだわ」と腹がたつけれど、
ほんとうに一ヶ月たつと楽になるという不思議。

昼も夜もなく泣きわめく赤ん坊に疲れ果て、母親という無力な立場に追いやられて
しまったような苛立ちを感じるリゾーリ。
現場から取り残されてしまうような焦燥。
事件が気になってたまらず、赤ん坊を預けて外にでてみると、これこそが
自分だとホッとし、それがまた罪悪感にもなる。
でも、今しばらくは辛抱しろ、というガブリエルに腹をたててしまったりもする。
戦う火の玉おんな、コンプレックスと闘争心の塊リゾーリの面目躍如である。

イタリア系リゾーリとは違い、冷え冷えとした家庭で育ち、海軍、FBIの道を
歩んだガブリエルの静かな生活は一変した。親戚やら警官仲間やら、やたらと
べたな人間関係が増えてゆく。
一方、事件は複雑さを増してゆき、自分の危険よりも、リゾーリと娘の命が
脅かされるほうがずっと恐ろしく、クールな灰色スーツ男だったはずなのに
心休まるときがない。

この二人のキャラ設定は、シンプルなミステリファンにとっては
どうでもいいとこかもしれないが、ロマンスファンにとっては実にツボなんだな。
ガブリエルに、一番嫌な部分をカッとして見せてしまうリゾーリ。
話を打ち切ろうとするリゾーリに、ちゃんと話し合おうとするガブリエル。
目をそむけない、面倒をよけない、感情が傷つくほど相手を近づける、
これはふたりが「愛すること」「家族であること」を学ぶ物語でもある。

モーラがガブリエルに「あなたとリゾーリは、残りの私たちにとっての希望よ」
なんて、ぼそっと言ってしまうけど、よくわかる・・・

さて、物語は、出産間近なリゾーリが入院した病院に、溺死と診断された身元不明の
女性が死体安置所で息を吹き返し、やおらERに運ばれたところから始まる。
病院でモーラが、ベッドで暴れる女性を押さえつけている医師と警備員に手を貸そうと
すると、女性が警備員の銃を奪い、警備員を射殺して逃走。病院の検査室に
人質を連れて篭城してしまう。
しばらくすると武装した男が病院にやってきて、篭城した女性に合流してしまう。

人質事件は、あっという間にボストン市警の手を離れ、ワシントンが介入する。
篭城した女性は一体何者か? 合流した男は誰?
ふたりは何を要求しているのか?

陣痛が始まったリゾーリも人質のひとりだった。容疑者男女はリゾーリが刑事で
夫がFBIだと知ると、人質2名とガブリエルの交換を承諾する。
FBIの人間に聞いてもらいたい話がある、という。
ところが、、、ガブリエルが話を聞き出す前に、麻酔ガス、スワップ突入となり
容疑者男女は問答無用とばかり撃ち殺されてしまう。。

ふたりの語りたかった事とは何だったのだろうか?


今回は猟奇的な事件の連続を追うような話ではなく、
実際、物語の最後に至っても、本当の意味では解決していない。
確たる証拠を手にし、これから司法の手によって多くの腐敗があぶりだせるかも? 
というところで終わる。

だが、読み終わるとじわっと静かな満足感がわいてくる。
それは、信念を曲げずに起こった事件に決着をつけようとするリゾーリら警官と
FBI捜査員や司法局員の行動が地に足がついていて信じられるからだろう。
リゾーリの「怒り」が、作者テスの「怒り」でもあるんだろう。
巨悪をズバッと切る、なんてことは起こらないが、怒りをもって進む姿が
凛々しいのだ。

そしてリゾーリとガブリエルには、、、泣ける。。

# 今回はリゾーリの人質、出産などがあり、歴代の登場人物、総出演だ。
「外科医」のトマス・モア刑事、「The Apprentice」のコーザク刑事、
リゾーリの天敵クロウ刑事、リゾーリのママ、アンジェラなど、
やだなぁ、もしかして、リゾーリシリーズはここで終わっちゃうのかな、と
心配になる。

-------------------

よかった、モーラ&リゾーリシリーズは続いてる。
高いレベルを保っていて、Must Buy の作家さんになっている。

The Mephisto Club では気味の悪い命題に突入した。

悪をなす人々とは一体何なんだろう?
どうしようもないほど Evil な人間というものがあるのだろうか。
そもそも脳や遺伝子、ホルモンなどに原因があるのだろうか。

もやもやしたまま終わったので、次がとても心配になったが、
その後は、また、振り子が戻った。

それでも1作ごとのテーマが厳しい。
男女や家族の愛、人種や職種、正義と真実など、

読み出すと止まらない面白いさ、かつ、登場人物の深みが増している。
それにしても、モーラに対してGerritsenは厳しすぎるよ、、うるうる。


作品のミニレビューはこちら


ブックレビューに戻る