Rawhide and Lace  なにも言わないで


「なにも言わないで」の邦訳でちょっと違和感があるのは
ヒーローの呼び方。
ヒロインはいつも「Ty」(タイ)って呼んでるんだけど、邦訳は「タイスン」よね。
さて、
<省略されたあの場面、この場面>

7章
「あの時はあんなことを言ったけれど、君を傷つけるつもりはなかったんだ」
「それほどひどいものじゃなかったわ。
「I liked .... touching you (あなたに触れるの、、好きだったのよ)」
って言ってから、
「さぁさ、熱いお風呂にでも入って」
 の間
 省略されてしまった約2ページ・・・


「あなたに触れるの・・・好きだったのよ」
エリンの手はタイスンの胸をゆっくりと触りだす・・
「うっ」タイスンは思わず震えた。
「タイ・・・」
「こっちへ」 荒々しくひっぱり、彼女を抱き上げた。
「もっと近くに。人は、痛みが去るまで抱き合っているといいんだそうだ」
 目を閉じると、ふたりの堅苦しさがゆっくりとほぐれてゆくのを感じた。
エリンはラブメイキングについて書かれた本の中にあった文章を思い出した。
”たとえ女性が満足しなかったとしても、ぎゅっと抱きしめられることで
その痛みは和らぐでしょう”
タイはこういうことを知っているようだ。

「sexについての本を読むの?」
「もちろん」 タイスンはドライに答えた、「読まないのか?」
「それほどは・・」
「わたしはたいてい女友達から聞くのよ」
「なんて奔放な生活なんだ」
「あなたはきっと信じられないほどよ」
女友達のスキャンダラスな出来ごとをことこまかく話してきかせると、
「恥かしがりにしては、よくしゃべったな」
彼は笑いながら 「気分はよくなった?」
「ふぅ・・・あなたは?」
「なんとかやっていけるよ」
嫌々ながら彼女の体を離し、覗き込むと、エリンの瞳の色が柔らいでいた、 
顔が生き生きとしている。
「NYのアパートでみた青白い幽霊とはずいぶん違うぞ、さぁ、熱いお風呂でもはいって」

となるわけで、ちょっとだけほんわかするんですよね。

8章
牧場で働くレッド・デイヴィスは、ボスのタイスンをからかうのが好きで
よく登場する。

結婚式のキスでエリンが涙をうかべ、タイスンが優しくハンカチを差し出すと

エ「ええ、誰かがわたしの結婚式で泣かなければならないとしたら
わたしのほかに誰が適してるっていうの」

レ「おれも泣くぜ、もしボスと結婚しなけりゃならないんならね」
タイはレッドを睨みながら「お前のクリスマスのボーナスは消えたぞ!」
レッドはにやりとして
レ「そうかな?この場合、今晩まで待たないとね、ボス」
タ「俺の牧場に一歩でも足を踏み入れてみろ、ウインチェスター銃をお見舞いするぞ!」
レ「牧師さまぁ、聞きました?ボスったらおれを撃つっていうんですよ!」
タ「そんなこと言ってな・・」
牧「くっくっく、なぜタイスンがそんなことを言ったのかもちゃんと聞いたぞ、レッド。
お前が彼の家のポーチに近づいたら、わしがショットガンの弾を
タイスンに渡してやろう」
レッドは悲しそうにあたまを振りながら「呆れたね」
牧「お前にも呆れるよ」
。。。


9章
クリスマスツリーが欲しいというエリン。
タイスンはこれまでクリスマスにツリーを飾ったことが無い。

「ツリーが欲しいわ」
彼はおおきくため息をついた。「君はずっと歩いたから、これから帰って
ベッドで寝なくてはいけないんだよ。 今日でなくても構わないだろ?」
「ツリーが欲しいわ」
道路端に車は停め、頭をふりながら 「女というものは」
彼が車のドアをあけて出て行くと、彼女はにっこりとした。
 
買ったツリーは根がついているのでクリスマスが終わってから
外に植え付けることができる。
「をいをい!クリスマスのあと、これをおれに植えつけさせるってんじゃ
ないだろうな?」
「ツリーをころすなんて冷酷なことできないわ」
「は?」
「2,3日家の中に置くために、ツリーを殺すなんて冷酷なことは
できないって言ったの。だって不自然でしょ?」
「それをいうならこれだって」
にこにこと金を受け取ろうとしている男とツリーを睨んだ。
「もし、このツリーを買わせてくれないのなら、わたし、厩からあなたの馬を
居間にひっぱってきて、それに飾りつけをするわよ」
タイスンはツリーを見つめ、エリンを見つめ、男をみつめた。
「さぁ、言ってみてよ、ほらっ、はっ!ばかばかしいって・・」

タイスンはツリーをつかんで 「行こうか」とつぶやいた。
。。。。

車が家に着くと、タイスンは優しくエリンにキスをする。。。

なぜだか、邦訳はこんな風にまとめちゃってるけど
------「きみはぼくの天使だよ」
------「あなたはわたしの王様よ」そう言って車から降りた

なんか違うぞ・・・原文は、

「君をツリーの一番上に飾りたいな」
彼はささやいた。「これまで見たどんな天使よりもきみは素敵だ」
「ふふ、古風な誉め言葉ね」キスを返すと
「おれはそんなに年じゃないぞ」にやりと笑って言う彼が何を考えているか、
エリンは気づいて頬がほてってきた。
「そこまでよ」慌てて車から降りようとすると、
「おれたちは結婚してるんだ、一緒に寝たっていいんだぞ」
「いくらでも言って」つぶやきながら、ちらっと彼の顔をみて
「罪深いほど興奮してるのね」
「くっく、、きみだって」
「わたし、ツリーに水をやらなくちゃ」
「そんなことレッドにやらせろっ。
「足がだめになるぞ。きみは今日いちにち十分すぎるほど歩いたんだからな」
「はい、閣下」(ぼそっ)

ってわけで、天使と王様のニュアンスとはちょっと違う、
かわいい天使とえばりんぼう閣下ってことなんだけど、邦訳は会話の順序を勝手に変えて、
ツリーに水をやる会話の前に「王様よ」ってセリフを入れてるんですよねぇ。。



さて今宵は熱々か、、と思っていたら、またしても急転直下。
せっかく甘く熱いふたりになったのに、家の中のちょっとした会話で
タイスンは傷ついてしまう(やれやれ・・)
。。。

今日の日の魔法が消えてしまったようだ。
ツリーの飾りつけは長時間立ちっぱなしの作業で大変だった。
コンチータが、タイスンの父親が生きていた頃のクリスマスの話を
しながら手伝ってくれた。パーティに集まってきた人々の話をしながら
「あれ以来、パーティは二度と無いんです」コンチータはため息をつき
「セニョール・タイは人間嫌いで」
エリンは、手に持ったオーナメントを見つめながら沈んだ声でつぶやいた。
「特に女性がね」
「ええ、本当にそうなんですよ。容貌のせいだと思います。
セニョールはとても気にしていて、自分のような、なんて言うんでしたっけ、
グラビア?みたいな顔じゃない男のことを気にかける女性はいないって
思いこんでいるんです。
なんて寂しいこと。だって、女をひきつけるのは見てくれじゃなくて
中身なんですからね。セニョール・タイは、まさに「男」なんです、
わたしのホセみたいね。彼は一家の大黒柱になれる男で、そうあるべきなのに・・」
。。。。

ほんま、タイスンのコンプレックスと、もてあまし気味のプライドには
困ったもんだ。。

10章
厩で愛をかわしたあと、エリンの顔が輝いて、邦訳は終わってしまうが、
このあとまだ3ページほどある

「自分の格好を見てみろ、冬のまっただなかだぞ」
「あなたもよ」と微笑むと
「きみが誘惑したんだ」やんわりと言って微笑んだ。
「ドレスを脱いでその素敵な胸をだしたりしたら・・・
やめることなんて出来やしない」
「あら、わけがわからなくなっちゃうほどじらして、わたしを苦しめたわ」
どれほど彼が欲しいと懇願したかを思い出して赤くなった。
 タイスンはかがんでエリンの下唇をそっと噛んだ。
「君がおれにせがんだんだ。わたしを奪って!ってせがむ声を聞くのは、
どれほどおれのエゴを満足させる事か。。あぁ、素敵だったよ」
「わたしのプライドはぼろぼろね・・」
「うそつき」ぶっきらぼうにつぶやき、キスで彼女の唇を熱くした。
「おれが抱いている間きみは笑いかけていた・・」
 彼がエリンの口をひらかせて、ラブメイキングと同じくらい親密で、甘くて、
餓えたようなキスをすると、彼女はうめいた。
突然、彼女ののどに顔をおしつけ、かれは唸った。
「したい、、でもできない。疲れすぎてる!」

エリンは彼の髪に唇を寄せて微笑んだ。「私もくたくた」
満ちたりた気分で目を閉じた。
「今晩はあなたの腕の中でねむってもいいの?」
かすかな震えが彼女を抱いている手から伝わってきた。
「もちろんだとも!」
再びほっとため息をついて、彼女を包む彼の体の温かい硬さを感じながら
「わたし起きたくないわ」
「おれもだ。だが、ここに誰かがやってきたとき、うろたえないでいられるとは
思えないな」微笑みながらつぶやいた。
彼女の体から身を起こし、愛らしくリラックスした姿を見つめ、
腰から長い足へと視線を漂わせながら
「なんてきれいなんだ、永遠に見つめていても見飽きないよ」
「あなたも悪くないわ」
「白状すると、いまはそんな気分だよ」混じりけの無い誇りを感じて
彼は笑った。
彼女に、服や下着を渡しながら
「君を見ないように我慢してる間に早く服を着たほうがいいぞ」
「お世辞が上手いわね」
服は最初すこし冷たくて震えながら着て、すまし声で言った。

彼はエリンより先に着おえたので、キスの合間にボタンをはめるのを手伝い、
それから彼女を持ち上げて立たせた。
「なぜキャンパス布が要ったの?」
ぼさぼさになった髪から麦わらをとりながら訊いてみた。
彼はかがんで干し草をつかみ、麦わらにイバラが混ざっているのを見せ、

「干し草は干し草だけじゃないんだ。イバラや野ばらや雑草があってね。
おれの体重が君にかかったら君の背中がどんな感じか、考えてもごらん」

エリンは真っ赤になった。
タイスンは愛がこめられているも同然の笑みを浮かべながら、優しいキスで
彼女のおでこをなぞろうと、腰をかがめた。
「きみが赤くなるのを見るのが好きだ。
君を赤くさせるのは自分だけだ、って思うのが好きなんだ」
 エリンはおでこを彼のあたたかい唇にすりつけた。
「わたしはあなたがこの国の女性の半分とベッドを共にしたわけじゃないと
分かって嬉しいわ。わたしたち、告白ごっこをしてるのかしら。
サン・アントニオのあの晩、あなたが、これまで誰とも愛を
交わしたことが無いと言ったときは、わたし、
ひざまずきそうになったのよ。天国にいるようだったわ」
 「そうは思わない女もいるぞ」
背を反らせて、彼の顔を見上げ、
「わたしがあなたの妻よ」と優しく言った。
 彼女を見つめているうちに、彼の胸は誇らしさで一杯になってきた。
「あぁ、そうだ。きみはおれの妻、おれの女だ」

彼女はふたりの間にかよった新しい愛情と彼の力強さを慈しみながら
心をこめて体を寄せた。
この時間が続きさえすれば・・・祈るように目を閉じた。
続きさえすれば!
いま、彼はわたしのもの。
あぁ、神様、どうか、どうかお願いします、
今度こそ彼がわたしを締め出さないでくれたら。。
わたしを愛してくれたら。。
ただ愛してくれさえすれば、そう、愛してくれさえすれば、、
彼の愛がわたしの望むものすべて、願うものすべてなんです。。


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これほどふたりとも相手を愛しているのに、なぜだか、互いに
「相手は自分のことを愛していない」と思い込んでいるお約束。
つらいがもう少しの辛抱だ。
苦悩のあとに歓喜あり。読者よ、11章の愛の大告白を待て。
(北上次郎か?!)



Fine