A Special Man「春のとまどい」のとほほ翻訳箇所について
前半部分のダニーのセリフを、6才の子供風に訳してくれていない不満だとか、
アマンダとして自分はこうあるべきだ、と規定していた自分像と、
マンディとしてダニーに受け入れられる自分像の違いを、ちょっとしたセリフで
ビリー・グリーンは表現してるのに、そこが訳しきれていないという不満は
更新の記録(2006.02.05)に書いた。
さて、後半のとほほ箇所へ行く前に、ひとつ、呆れる勝手な自由作文訳がある。
ダニエルが弟カイルに電話をする箇所だ。
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これまであったことをカイルに伝え、自分を救ってくれたアマンダのことを
「みんな彼女のおかげだよ」そして僕の命の恩人だと、そっと付け加えると
「僕の何? よく聞き取れないよ。みんながおかしくなってる時に、
意味のわからないことを言わないでくれよ。」
カイルに悪気はないとはわかっていても、アマンダがどうでもいいように
扱われるのは我慢がならなかった。
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と、ダニエル(ヒーロー)はいらいらと腹をたてるんである。
怒るほどの会話だろうか?と気になって原書を読んでみると(以下拙訳)
「みんな彼女のおかげだよ」そして命の恩人だと、心の中で付け加えると、
「おやおや、意味深だね。ぼくらが大騒ぎしてる間、そっちはお熱い
お楽しみ中だなんて言わないでくれよ」
カイルに悪気はないとはわかっていても、アマンダのことを軽い女のように
言われるのは我慢がならなかった。
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・・おやまぁ、ずいぶん原文と翻訳は違う。で、原文のほうがとてもまともだ。
カイルは女を見れば寝ることしか考えないような奴で、いかにもそういうセリフを
言いそうな男なんである。
さらに言えば、ダニエルが世界で一番愛している人間である「弟」に、イライラと
腹をたてるのは、重大なことなのだ。
アマンダについて軽口を叩かれるのはとても気に障るのだ。
それにしても、なんで「よく聞き取れないよ」なんて超訳になっちゃうの?!
"My, my," Kyle said. "What's this note I hear in your voice?
Don't tell me you've been getting your kicks while we were all
going crazy."
Kyle was a casual devil, but Daniel didn't like him talking
about Amanda as though she were a roll in the hay.
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さて、お次が「とほほ」な箇所。
ダニエルとアマンダは、カイルの家に向かう。
戸口に立つカイルの方へ草陰から立ち上がって行こうとするダニエルを
ハッと止めるアマンダ。「ちょっと待って!」
「What's wrong?」
「He's wrong.」
「What are you talking about ?」
弟カイルのことを心から信頼しているダニエルを傷つけたくない、
でもアマンダは病院でカイルの姿を見かけたのだった。
カイルが病院にいたのはこの事件とは無関係の事かもしれない。
でも、用心したほうがいいし、、
そういう箇所なのだ。まだカイルについて何も確証はない。
ダニエルがwrong という単語を使ったから、それに対応して答えた。訳すとしたら
「どうかした?」
「彼だわ」
「え?何のことを言ってるんだ?」
くらいでいいんじゃないかと思うが、
本の翻訳は
「どうしたんだい?」
「彼が悪者よ」
「何を言ってるんだ」
悪者よって一体・・・・
このセリフの後に、たまたまあの場所にいただけで事件とは関係ないかもしれないけど、
なんて、それじゃぁ、悪者よって、なんなのサ。
もー、日本語の文だってオカシイと思うだろうに、、不思議だ。
もちろん読者にはカイルが黒幕ということは見え見えである。でも、
だからといって「悪者よ」なんて先に教えられたくない(笑)。
ストーリーの流れの中で、作者がせっかく緊張感を盛り上げているところだというのに、
あぅっ。(>_<)
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最後は、かなり気に食わない訳の箇所。
ささいな単語だけれど、でも、そりゃあんまりだと思う箇所なんだ。
お互い、相手から拒絶されるのを恐がっていて、気持ちをうまく伝えられない。
「僕たちベッドの中ではすごく合っていただろ、終わりにする必要はないよ」
「わたしはそうは思っていないわ。わたしは娼婦じゃないのよ」
ここです、ここ。
再び口を開くまで相当の間があった。そして
彼は残念そうに、ゆっくりと言った。「君は、そんな女じゃないよ」
うぎゃっ。気持ちが分からなくは無いけど、残念そう、って、残念そうってなんなのサ。
スケベな意味にとる読者はいないと思うけど、でも、微妙に下品だ(笑)。
his voice was slow and dull. "No, you 're not."
再び口を開くまで相当の間があった。そして
彼は生気なくゆっくりと言った。「あぁ、君はそんな女じゃない」
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大事なものをみすみす失ってしまう、心のなかに空洞ができたような感じ。。
ちょっと切ないぜ、と思っていたのに、スローでダルな声は、残念そう、なのか!?