2005年その1                    ラテンアメリカ映画リストへ


ハリー・ポッターとアズカバンの囚人 HARRY POTTER AND THE PRISONER OF AZKABAN (2004年アメリカ)

ハリポタ映画はこれまで観なかったのだが、
「天国の口、終りの楽園」を撮ったメキシコのキュアロン監督が撮ったと聞いて
観たくなってしまった。

分厚い内容を上手くまとめているし、私的には、コンパクトで満足。
そして、なんといってもハイランド風景がハナマル!
どうもハリポタの感想というよりは、ハイランド映像が気に入ったので
見て損はしなかったなぁという感想。

キュアロン監督って、群像もの、子供や若者の色々な気持ちを撮るのがうまいわ。
そして映画を作る事を楽しんでいるよね〜。
(2005.01.02)
 
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ビーナス・ピーター  Venus Peter (1989年 UK)

全編オークニー島で撮影されている。
普段は、字幕を読みながらもなんとなく耳に英語が入ってくるのを受け止めて
いるのだが、この映画は、何を言ってるのかよく分からないほど訛っている。

最初わたしは、私生児かと思ったが、どうもそうではなく父親は家を出てしまったようだ。
で、祖父、叔母たち、伯父、母と一緒に暮らすピーター。
母親はピーターに「お前のお父さんは船乗りで、いつか大きな船に乗って
迎えに来てくれる」と話している。

島の暮らし、不漁が続く日々、少しオカシイ人、かなりオカシイ人、
盲人を囃し立てる子供たち、スパルタの鬼ばばあのような教師、
浜に打ち上げられた鯨、ハロウィン、お葬式、、
いろいろな本音の、素朴で猥雑な日常がそこにある。

美しい教師への淡い初恋、船を手放し漁師を辞める祖父、不在だった父親の
突然の帰還。。
感受性の強いピーターの少年期を切なく描く。

人は強欲のために自然の恵みを搾り取って、天国へ続く一本道を失ってしまった。

ピーターの父親は、彼自身の父(ピーターの祖父)が借金のカタに船を売ったことを
知ると、銀行から船を買い戻すが、父から受け取りを拒絶される。
ピーターは船乗りだと信じていた父が、実は島を捨て、都会で成功した実業家だと
知り、拒絶する。

映画は、人間と自然の絆と、父と息子の絆を重ね合わせて描いているようで、
取り戻したくとも切れてしまった、いや、自ら切ってしまった絆が宙に浮かんでいる。
わたしたちは失われた道を見つけることができるのだろうか・・・
牧歌的で美しい自然だが厳しいラストでもあった。
 
 
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ウォルター少年と、夏の休日 Secondhand lions (2003年アメリカ)

原題の持つ味わいが、邦題には無いのが残念だわ。あまりに平凡な邦題(>_<)

原題のとおり、老いたライオンと、老いた、かつての勇者たちと、14才の
ウォルター少年のひと夏の交流を描いている。
ロバート・デュパル、マイケル・ケイン、ハーレイ・ジョエル・オスメント。
3人の役者の上手さと、老いたライオンがハナマル。

ハーレイは声変わりしつつある、まさに物語と重なる少年を演じ、
振り回され傷ついた子供時代に別れを告げ、自分の欲しいものを見据える若者に
ならんとする姿を繊細に演じていた。
名優ふたりは、味のある、心に響く演技をみせてくれる。

次から次に男に捨てられては男に頼る母親に夏休みが終る頃に迎えに来るから、と
言われ、遠い遠い親戚の大叔父のもとに置き去りにされたウォルター。
うさんくさい大叔父ふたりは、大金を持っているというもっぱらのうわさ。
奇妙な生活のなかで、少しずつ温かいものが通い合う・・

大叔父の語る胸躍る冒険談、襲い来る剣客をばったばったとなぎ倒し、
お姫さまを攫って、シークを叩きのめし、永遠の愛を手にした、と。
途方もない話に、「それ、本当?」ときくウォルター。
真実かどうか、は大事じゃないんだ。
人には信じなければいけないってことがあるんだよ。と諭す大叔父。

父親のいないウォルターに、大人の男の物語を語ってくれるふたり。
一方、力の衰え、老いた体力に空しさを感じているふたりにとっても、
ウォルターとの暮らしは、生きる価値と誇りを再び取り戻す大切なものとなる。

人生の価値と家族の愛を描いたやさしい作品。

ラストには2パターンあって、DVDの特典には別のラストもついている。
わたしは、本編のラストの方が断然好みだ。
(2005.01.02)
 
 
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五線譜のラブレター  DE-LOVELY (2004年米・英)

アメリカの国民的作曲家コール・ポーターの生涯を描いたミュージカル。

裕福な家に生まれ、ハーバートを出たコールはアマチュア作曲家で、パリで
大金持ちの未亡人リンダ(そうは全然見えないが8才年上 キャスティングが失敗だと
思うが・・)と知り合う。
リンダはコールの音楽の才能と優しさを愛し、コールがゲイであることを承知の上で
結婚し、独立した夫婦関係を築くが。。。

主役のケビン・クラインがとんでもなく上手い!

でも、映画は微妙〜・・・

まず、わたしはポップスの素養が無い。
だから、大物歌手だれそれが歌うナニナニ、とネットを見れば山ほど書いてあるが、
どなたを見ても、普通に「歌が上手いなぁ」程度で、ありがたみが薄いのよ。

そしてストーリー自体に、とても苦手な点がある。(ネタバレ注意)
ゲイであることを理解して、肉体関係無しの夫婦となったふたりだが
親密な愛情でつながっていた。。これはいいよ、全然OK。
ハリウッドで成功して、コールは乱れた男関係と享楽的な暮らしにあけくれ、
一度だけの子作りで妊娠したリンダが流産し、身も心も傷つき、しかも肺病にも
かかっているというのに、彼女を省みずあまり生活態度も改めない。
リンダは愛想尽かして別居する。これもOK。

でも、もう一度リンダがコールの元に戻ってきて、しみじみとした夫婦関係を
築くのが、コールが足を怪我したからだ、、ってとこがねぇ。。
大怪我で歩行困難になって、若い男たちとsexできなくなったってことで、落ち着くのがねぇ。

実話に基づいているから、事故自体は仕方ないが、事故後、別居までに至ったさまざまな
ふたりの問題が解決したかのように、落ち着くところに収まってしまったかのように、
描くのが、物足りないんだ。
なんか、夫婦の愛情物語というわりには、後半は深い掘り下げが無いんだよねぇ。。

正直、ふたりの関係や自己の内省など、掘り下げが足りず希薄なストーリーだと
いわざる得ない・・
ま、そんなことは考えずに、美しい衣装と豪華な暮らしと心ときめく音楽と
老け役上手すぎケビンを楽しめばいいんだけどね(爆)

個人的には、実話のとおり、8才年上っぽい老けた女優を起用して、
若く愛すべき天才ゲイくんを愛した年上の女が、自分が愛するほどには
愛情を返してもらえない苦しみに傷つきながらも、生涯彼を愛し続けた、、
という雰囲気をもっと強く打ち出してもらいたかったかなぁ・・・
ある意味、ケビン・クラインが立派すぎたかも。
(2005.01.03) 
 
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南東からきた男  Hombre mirando al sudeste (1986年アルゼンチン)

スビエラ監督作品。
原題は「南東を見ている男」である。
知的で、美しく、残酷な映画だ。

とある精神病院にひとりの男がどこからともなくやってきた。
彼は宇宙船にのって他の星から来たとしか言わない。
落ち着いた態度、高い教養と知性、
中庭で南東を向いて立つ(受信していると言う)以外、
全く狂った様子など無い。

だが、彼を正常だと認めてしまうと、それは「他の星から来た」ことを
認めることになってしまう。それはできない。
そう、彼を正常だと認めると、自分が狂っていることになってしまうから、
彼は正常であってはいけないのだ。
自分自身を守るため医師が断固として彼を治療しようとする。

彼は地球という星の罪を調べている。
大事にしている箱のなかには、新聞の切り抜きがたくさん入っている。
戦争、飢餓、虐殺、、沢山の事件の切り抜きが入っている。

「わたしは地球の武器について調べているのです」
「武器?」
「愚かだということ」

キリストとしての彼と、ピラトとしての医師。

そういうように物語は流れていくが、別に宗教的な読み方をしなくても良いだろう。

この世の中、相手を認めることが自分の存在に疑問を投げかけるから、
それが面倒だから、それが嫌だから、それが恐いから、
だから相手を認めない、そんな相手は存在しちゃいけない、
治療・救済・治安と称して「愚かさ」を武器に相手を抹消していくことだらけだ。。。

彼を治療する医師は、愛する妻を亡くした過去を持ち、とても不幸だ。
彼と語り合い、一緒にサーカスにいき、音楽会に行き、心の痛みが癒され、
幸福な気分を味わうのに、、、断固として治療する。。

インテリで暗い、とてもアーティスティックな典型的なアルゼンチン映画。
「行き先を告げずに死ぬな」と同じくペドロ・アスナールが音楽を担当している。
劇中で使われるバッハのオルガン曲と、ベートーヴェンの第9の合唱シーンが
とても印象的だ。
 
 
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Brother of Sleep  Schlafes Bruder (1995年ドイツ)


 ロベルト・シュナイダー原作の「眠りの兄弟」はドイツでベストセラーになり、
 25ヶ国以上の国で翻訳されたそうで、日本でも三修社から出版されている。
「壮絶な最期を迎えた驚異的聴力を持つ音楽家の物語」ということだが 
 映画は、、というと、これがなんとも奇妙で下俗な味になっている。
 (英語字幕のついた中国製DVDを購入)

「眠りの兄弟」とは「死」を指していて、人は眠っている間は死んでいるのと
同じようになってしまう。だから、彼女を命の限り愛するためには眠ってはいけない、
という理屈で不眠死を遂げるのだが、映画はもっとぐちゃぐちゃである。

舞台は19世紀、人里離れたオーストリアの山中、貧しい小さな村。
フィルムはとても美しい。
主人公エリアスは、生まれた直後から母に嫌われて育つ。
5才のとき、隣の家で生まれた娘の心音が聞こえ、川面に落ちる木の葉の音、雲の流れ、
世界のすべての音が聞こえるという天啓を受ける。
以後彼は教会のパイプオルガンのふいごを押す仕事をしながら、音楽に魅了される。

5才年下の運命の女性エルスベス(17)は、どうみても、厚かましいサンドラブロックって
感じなんだが、エリアスのプラトニックな愛に物足りなさを感じ、別の男と結婚してしまう。

んでもって、エルスベスの兄ペーターは子供の頃からエリアスを愛していて、
自分だけがエリアスの音楽への愛を理解できると思っている。
エリアスの天賦の才能を世に知らしめるためには、妹エルスベスを殺すことさえ
厭わない。危ういところを助けられたエルスベスは、村から夫とともに去ってゆく。

エリアスは「眠りの兄弟」という主題のオルガン曲を演奏したあと
二度と眠らないことを決意する。

原作の味の不思議な物語というより、奇妙で醜い、とんでもない愛憎劇になっている(^o^;
わたしが思うに、この映画ではエリアスが主役ではなく、エルスベスが主役なんだよねぇ。
Joseph Vilsmaier(ヨゼフ・フィルスマイヤー)監督の映画って見たことないんだけど、
下の作品のすべて、ヒロインは Dana Vavrova(ダーナ・ヴァブロヴァ)で、
「スターリングラード」(1993) 「カティの愛した人」(1991) 「秋のミルク」(1988) 
たくましく生き抜く女って役柄みたいなんだな。で、彼女がエルスベスを演じてる
わけだから、話がそういう感じになっちゃうんだな。。
(2005.01.10) 
 
 
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Terra Estrangeira ( Foreign Land 異境の果てに) (1995年ブラジル)

ウォルター・サレスとダニエラ・トーマスとの共同監督作品。
多くの映画賞を受賞した作品だ。
英語字幕で見た。
クライムサスペンスとロードムービーが混ざったような味わい。
白黒映画で暗く悲しい。DVDパッケージのイメージとこれほど違うとは予想もしなかった。

舞台は1990年3月、29年振りに選挙で選ばれたフェルナンド・コロル大統領が
インフレ抑制のための経済政策の一環として、預金口座凍結、クルゼイロへの切り替え
などを行う。だが、結果は未曾有のハイパーインフレと大量の失業者を生み、
多くの若者が海外へ出て行った。(日本でも日系ブラジル人の日本への出かせぎの
ピークは90−91年だという)

ブラジルに住む21歳の主人公パコは、預金凍結のニュースにショックを受けた母親が
急死し、途方にくれる。
町で知り合った男イゴールが、荷物をリスボンまで届けてくれたら
母親の生まれ故郷、スペインはサンセバスチャンまで行く旅費をくれるという。

サンセバスチャンへ行くことを夢見て母親は長年貯金をしてきた・・
希望を見出せないブラジルを離れ、遠くの土地で何かを見つけたいと思うパコ・・

リスボンで働くブラジル人、トランペット吹きのミゲルとウェートレスのアレックス。
ブラジル人だというだけで、低賃金労働、虫けらのように扱われる毎日。
ミゲルは、イゴールの密輸品を受け取る仕事をしているが、荷物をくすねて、
金をつくりアレックスと共に逃げようと考える。
だが、あっけなく、横流しがばれて、組織のものに殺される。

そんな状況下に、パコはやってくる。

待てど暮らせど、荷物を受け取りにくるはずのミゲルが現れず、
イゴールとも連絡がつかない。身動きがとれないでいるうちに、ミゲルが死んだことを
知り、アレックスやアレックスの友人ペドロを探し出すのだが、
組織の者だと勘違いされ・・・

物事が悪いほうへ悪いほうへと動きだす。
サンセバスチャンへと逃避行にでるパコとアレックス。

お金の価値も、人間の価値も、あっけなく消えてしまう現実を映画は淡々と描く。
闇で取引されるパスポートの値段でさえ、ブラジル人だと10分の1で
買い叩かれる。
そんななか、いつかhomeに帰る、いつかホームに帰るんだ、と歌が繰り返す。。
自分の生きる場所を失った者たちの哀しい夢。
(2005.01.18)
 

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