Love Bites
更新の記録の方での感想はこちら。
長くなりましたが、抄訳と、最後の3ページだけ直訳を書きました。
もし興味がわいたら、原書もどうぞトライして
ヒーローは生を謳歌している(ように見える)ヴァンパイア。
思わず引き込まれるような深い声で連日、深夜ラジオから語りかける。
「あの声なら、トースターの取り扱い説明書を読んでるとしても
ぼぉっとなってしまうわ」
これほど生き生きしている人を見たことがない、
目はエレクトリックブルーに輝いていて、黒い長髪を
後ろでポニーテールにして、片耳には金のピアス。。
彼はラジオステーションではスケボーにのって現れ、コーヒーを
飲みながら話をしようと、ハーレーにまたがらせ、初対面の
ヒロインを驚かせる。
ヒーローは最初から、自分がヴァンパイアで、人間の助手を求めていることを
ヒロインに話す。 長いこと助手をしてくれた男が最近亡くなったので、
こうして面接をしていると。。
舞台は現代のアメリカ、もちろん、ヴァンパイアなんてものを
まともに信じている人間などいない。
ヒーローが絶対に写真を拒否するのも、
「ヴァンパイアはカメラに写らないからね」と言うのも、
おもしろいジョークと思っているだけ。
だが、ヴァンパイアたちはひそかに組織を作り、人間社会のなかで生き抜いてきた。
現代社会で不死の疑惑をもたれずに生き延びるために、
死亡証明と財産譲渡などを、古くから関係のあるパリの銀行Blanc et Cieが取り仕切っていた。
ヴァンパイア社会で最終的な決定権をもっているのが the Council of Six (6賢人会)で、
彼らとBlanc et Cie は長い付き合いだった。
Blanc et Cie には、過去から現在までの膨大なヴァンパイア個人データがあり、
多額の資産を預けてもらうかわりに、彼らのために便宜を図る、
もちつもたれつの関係を保ってきた。
International Vampires、通称 IV という組織は
絶対に生きている人間に手を出さないと言う規約の下、
IVの運営する血液銀行から血液を購入するルートをつくっている。
資金をより自分たちで運営するため、Blanc et Cie から預金を
おろすことで、最近 IV は the Council of Six (6賢人会)ともめている。
IVは因習的な6賢人会からたもとを分かとうとしていた。
さて、この話でいうヴァンパイアとはどういうものだろう。
彼らの栄養源は人間の血。これは不文律だ。
彼らは通常の意味ではまったく病気にもかからないし、
怪我をしてもすぐに直るし、不死である。
(不死不老であるけれど、受精能力は全くない)
ただし、太陽の光は彼らにとって致命的で、薄明でさえ、
貫かれるような傷みを感じ、朝日のもとでは数分もしないうちに
灰になってしまう。
もっとも、朝日がのぼり、沈むまで、彼らは意識を失うかのように
眠りついてしまう。
ヴァンパイアになるには、dark kiss 血の交換が必要で、ただ吸われただけで
ヴァンパイアになるのではない。
話をもとに戻そう・・・
ヒーロー、トラヴァーは現IVのプレジデントとして
mortalのなかでヴァンパイアが静かに幸せに生きる道を
模索している。
ヴァンパイアになるべきではなかったある青年の苦悩と自殺
(自宅に火を放ち、庭に椅子をだして、朝日を迎えた)事件が起きる。
彼は自分自身を呪い、太陽の光を見ることを100年ものあいだ
願ってきた青年だった。
トラヴァーはIVの長として、人間に戻りたいヴァンパイアをなんとかする方法を長いこと求めていた。
その手伝いの適任者としてヒロインに矢が当たったわけだ。
彼女はコンピューターに秀でていて、トラヴァーの頼みを受けて
重要ファイルのハッキングを受け持つ。
(もちろん、物語ではすごい葛藤があったのだが、ここは はしょる)
Blanc et Cie にあるヴァンパイア個人データをダウンロードし、
Blanc et Cie から抹消することができれば、
もう二度と、銀行側に圧力をかけられることもないし、
おそらく、この個人データのなかに、「人間に戻る」鍵、クリスタル・オブ・チェンジの
手がかりがあるのでは、と考えていた。
ヒロイン、ケイは当初はヴァンパイアなどという存在を信じていなかった。
だが、嫌でも信じざる得ない日常に直面する。
トラヴァーは、ヒロインを「ケイ」と呼ばず、ヴァンパイアの人間アシスタント名「レンフィールド」と呼ぶ。
前任のレンフィールドの写真を見つけるケイ。トラヴァーと同じ年ぐらいの若者が
となりあって笑っている写真。壮年になった男が全く今と変わらぬトラヴァーの横にいる写真。
老いた男がトラヴァーと共に写っている写真。。。
どれほど心がかよいあっても、老いと死によって隔てられる関係。
本名を覚えたくないと、トラヴァーは言う。
朝日がのぼってから沈むまでが、勤務時間。同居して、すべての日常管理を
任される。
子供の頃病弱だったケイは、健康になった今も、あまり冒険めいたことを
したことがなかった。だが、トラヴァーによって、夜のスキー、バイク、
フライト、わくわくする人生に出会う。
でも、不老、不死、それは本当に幸せなことなんだろうか・・
このあたりから、トラヴァーがなぜヴァンパイアになったか、が
明かされてくる。
彼は180年前、フランス革命のころに生まれ、貴族だったが
両親は殺され、没落し、法律家をめざして勉強したかいもあり
かけだしのlawyerとなり、ひとりの娘と愛し合って結婚した。
しかし、彼は目に異常を感じるようになり、
自分が今で言う網膜色素変性症であることがわかる。
http://www.m.chiba-u.ac.jp/class/gannka/J_nani.html
視野がどんどん狭くなり、最終的に失明する。
5年間、あらゆる治療法、医者を探して、、、もうほとんど
目は見えなくなっていた。
仕事を失い、絶望と貧困、そして妻の妊娠、
彼が馬車にひかれた時、その馬車に乗っていたのが
とても美しい(イメージはお蝶夫人 笑)ヴァンパイア、ヴェネタ。
トラヴァーはとてもハンサム(お約束ですね)で
ヴェネタは永遠の生を申し出る。
ヴァンパイアになると、まったく病気をしない、傷はすぐになおる、
そう目が見えるようになる。
彼は妻と生まれてくる子供を守るために、ヴァンパイアに
なったのだが。。。。
しかし、当時のパリでは血液銀行などあるわけもなく、
人の血をすすらなければ生きていけない、、
子供は流産し、妻は彼をなじり、恐れ、のちには気が狂ってしまう。。
こういう過去を知ってしまったケイは、
「人間に戻る方法をもし見つけたとしても、
自分は人間に戻る気は全く無い」 と言うトラヴァーの言葉に
うなづくしかなかった。
暗闇、失明の人生か、、本を愛し、絵画を愛し、生きる事を
楽しむヴァンパイアか、、
で、、そこから、クリスタル・オブ・チェンジの探索、そして発見。
現在まで生きているうちで最古の6賢人会ヴァンパイア長老たちとの戦い。
長老は旧思想のもと、IVが勢力を増すのを嫌い、対立を続けていたが、
クリスタルを盗もうとしたトラヴァーとケイはつかまってしまう。
深刻だけれど、マーガレット・セントジョージはとても優しい。
ヴェネタと老貴婦人のP.G.(どちらもヴァンパイア)は、
トラヴァーを大事に思っている、でも、永遠の命で愛を保ち続けることが
どれほど難しいかを、苦しいほどわかっている女たちで、
ヴェネタは当然ケイが大嫌いなんだけれど、誇り高く、ケイを助ける。
そしてもちろん、トラヴァーとケイは探索のあいだに
心がどんどん近づいていく。
トラヴァーが「レンフィールド」ではなく「ケイ」と呼ぶ瞬間が切ない。
共に生きることを互いに心から望むけれど、
キスすることさえ出来ない。
ヴァンパイアは、emotionが高まると、必ず犬歯がのびてしまう。
感情をコントロールすることは、お手の物だったトラヴァーだが、
ケイとの距離が近づくにつれ、「はっ」と手で口を隠し、顔をそむけることが
多くなる。
「犬歯なんかじゃない、きばだ」と、トラヴァーは自らとケイとの間の
深い溝をいやでも認めざる得ない。
ケイが、自分がヴァンパイアになってもいいと、P.Gに言うシーンがある。
「いろいろな理由から私たちの種族になるけれど、
愛だけは理由にならないわ。永遠という時の中で関係を続ける事は
とても難しいの。愛を失う事こそが、、わたしたちに科せられた呪いよ」
長老たちに捕らえられてケイの命が危険に曝されたとき、
トラヴァは彼女と生きる人生と、彼女なしで生きる永遠を思い、、
。。。
ケイがチェンジ・オブ・クリスタルの謎を解き、6賢人会とIVは和解する。
だが、ルーマニアからアメリカに戻っていらい、トラヴァーの様子はおかしい。
そして、クリスタルの発見を祝う会で、トラヴァーはケイの相手をしようともせず、
ヴァンパイアの友人たちと話つづける。。
夜明けまであと1時間というころ、ケイの寝室をおとづれるトラヴァー。
「みなに別れをつげたんだ」
トラヴァがクリスタルを試すつもりだと告げると、
ケイは泣いてとめる、
「だめよ、そんなことをしちゃだめよ、網膜色素変性症は今でも治療法は無いのよ!」
彼は優しく頬を両手で包み、感情の高ぶりで伸びた歯の間から話した、
「僕は暗闇にはなれているよ。
君なしですべてを見るより、君の横で盲目でいるほうがましだ。
ケイ、君がいなければ、見たいものなど何ひとつ無いんだよ」
彼の肩を乱暴に揺らしながら
「あなたにそんなことをさせるくらいなら、わたしがヴァンパイアになるわ!そのほうがずっと、」
「だめだ!」
彼はケイをぐっと胸に抱き寄せ
「僕はずっとこのことを考えてきたんだ。ずっとね。これは僕が望んでいることなんだ。
僕はずっとmortalになりたかったんだよ。ただ、それを認めようとしなかっただけなんだ」
「でもあなたは目が見えなくなってしまうのよ!」
「君が僕の目だよ。僕は君を通して世界を見るんだ」
クリスタル・オブ・チェンジを今まで試したヴァンパイアはいない。
成功するのかどうか、誰もわからない。
「あなたは死んでしまうかもしれないのよ」
優しく親指で彼女の涙をぬぐいながら
「よく聞くんだ、ケイ。これは僕の選んだことなんだ。僕のね。
君は決して僕を憐れむ必要もないし、自分自身を責める必要もない。
これが僕のしたいことなんだ」
彼の声はおだやかでしっかりしていた。わずかに微笑んで
「僕は盲人で最初のスキーとスケボーをやる男になるつもりだよ」
爪ほどのクリスタルのかけらを舌にのせ、血をすする儀式。
血液銀行から届けられたパックを飲もうとするトラヴァーをさえぎるケイ。
「クリスタルが発見されたとき、血液銀行なんてなかったじゃない」
ゆっくりと頭を傾け、髪をのけ、自分の喉をさらす。
「だめだ。。。何が起こるかわからないんだ、自分をコントロールできないかもしれない。。」
「私の血でクリスタルを溶かして。私の血と愛で。」
かれがためらい、決断しかねていると、彼女は一歩近づき体をぴたりと押し付けた。
はっと息をのむ音。
彼の硬くなったerectionがおなかのあたりに感じる。彼の低い苦しんでいるような唸り声。
彼はつぶれるほどぎゅっと彼女を抱きしめ、高まりを動かすと
薄いナイトガウンを通して彼女の肉体は熱く濡れた。
。。。。。。
。。。。。。(おとろちいほど、すご〜〜く、官能的なシーンであります)
。。。。。。
【ラスト3ページ直訳】
ケイが気がつくと、空は金色とピンク色になりかけていた。
ようやく頭をあげ、部屋の中をみる。
「トレヴァー!まさか!」
彼は痙攣しながら、床に倒れていた。
ケイは彼のもとにかけより、膝をついた。
死んでしまうと思ったが、どうしていいかわからなかった。
泣きながら、彼の体の震えがとまり静かになるまで、体の上に身を横たえた。
むせび泣く声と、彼の名前、、これが彼が最初に聞いたものだった。
つぎに自分の心臓の音が聞こえ、そして、180年のあいだ、聞いたことのなかった
小鳥のさえずるシンフォニーが聞こえた。
意識がはっきりしてくると、体中の奇妙な痛みに気付いた。火が氷を溶かしているような
たまらないほどひどい痛み。体のすべての細胞が傷ついて壊れて作り直されているかの
ようだった。動脈と静脈に溶岩が流れているようだった。
自分が死につつあるのか、人間に戻っているのか、わからなかった。
「トレヴァー!おぉ、神様!おお神様」 ケイのキスと熱く塩辛い涙が彼の顔をぬらした。
「わたし、あなたが死んだと、、、ああ、my dearest, my darling, my love 」
弱々しく手をあげ、彼は彼女の喉にある2つの噛み痕に触れ、なんて彼女は
蒼ざめた顔色なんだろうと思った。
「僕はやりすぎてしまった・・」彼はささやき、彼女の魂の煌くあわ立ちと、
彼女のエッセンスの輝きを思い出した。彼女そのものを知る恍惚感と
彼女に対する情熱で、彼は彼女を殺してしまうところだった。。。
「起き上がれる? 立てるかしら?」 涙が止まらない。
「クリスタルは効いたの?」
「分からない」 体の内部の痛みはたとえようもなく、彼は死ぬかもしれないと思った。
最初のかすかな朝日が書斎の扉からさしこみ、彼を焼いたとき、そう思った。
恐れが喉元までせりあがった。
彼はもう一度、太陽が彼を打ちのめして灰にしてしまう前に、彼女を見なくては。
なんとかもがいて壁に寄りかかり、獰猛なほどに彼女を抱き寄せた。心臓の音が
荒れ狂ったように聞こえた。それから彼は手を彼女の顔にすべらせ、
美しいすみれ色の目を、なめらかな頬を、胸が痛くなるほど甘いくちびるを見た。
そのとき、それが始まった。
視界の隅がゆっくりと影をおび、暗闇にかわっていった。
彼はまばたきをして頭を振った。影はケイの顔にむかって、光を汚し、暗黒を残していった。
「外へ連れていってくれ」 彼はささやいた。
「ト、トレヴァー、大丈夫なの?」
「ああ、どうかお願いだ」
すこしためらったが、彼女は彼の腕を自分の肩にまわし、なんとか書斎のドアまで行き、
庭にでた。太陽は水平線から顔をだしていた。
最初、太陽光線の熱は強烈で、トレヴァーは叫び声をもらし、ケイの肩を強く掴んだ。
それから、彼は空を見て、皮膚が焼けるのを忘れた。
涙があふれてきた。
「ああぁ、、なんて青いんだ。。とても深くて、、、青い!どうしてこれを忘れていたんだろう」
「ええ」 ケイも泣いていた。 「ええ」
「そして、温かい!」 焼けるような感覚が一瞬燃え上がり、そして薄れ、温かさがわきあがり
沁み込んできた。びっくりするほどの温かさが、何世紀もの冷え切った寒気を消し去り、
彼の顔と腕を愛撫し、おなかの中、胸の内を暖めていった。
「僕は生きている!」 顔を空に向け、腕を投げ出した。
「レンフィールド! 僕は太陽の下で立っている、そして生きている!」
「そうよ!」 彼女は笑って泣いてキスをして彼に触れて、
「あなたは生きてるのよ!」
しかし、たとえ死に物狂いですべてを見ようとしても、瑞々しく開きかけた花、小鳥たち、
緑の夏草、空、蜂蜜のようにふりそそぐ太陽の光、すべてを見ようとしても、
彼の視野は狭まっていった。 カメラのシャッターが閉じるように、影はゆっくりと
トンネルの向こうの出口のような穴を閉めていった。
狂わんばかりに彼はケイをつかみ、両腕を伸ばして見つめた。
「君の顔を見せておくれ」 かすれた声でささやき、できる限りのあいだ
彼女の姿を見ておこうとした。
彼女は涙できらめいている瞳で彼をみつめた。寝癖のついたようにカールのはねた、
彼女の卵型の顔。くちびるがひらき、彼の名前が漏れる。青い空を背景に
彼女は輝いていた。
彼女の像がぼやけ始めたとき、彼は優しく、そして、うやうやしく、彼女の顔に触れ、
指先でたどった。
月の光の中で立っていた彼女のことを忘れないだろうと思っていたが、それは間違いだった。
彼がこれからずっと、二人の人生のあいだ胸に抱いていくのは、今見た彼女の姿なのだ。
太陽の光が彼女の髪を照らし、すみれ色の瞳が愛と日光で輝いていた。
うつくしくきらめいた顔がやわらかな朝の光のなかで微笑んでいた。
これが、彼が老いるまでずっと共に連れ添う彼女の姿なのだ。
日光のなかで、はだしで立っているケイ。いつまでも若く、彼を愛しているケイ。
涙があふれ、彼は彼女を引き寄せ、思いをこめてたっぷりとキスをした、
そして、自分の魂が満たされるのを感じた。
これからの年月、彼は千のキスを、何千のキスをかわすだろう。
そして、キスをかわすたびに、彼はささやくのだ、静かな感謝の祈りを。
彼女が彼のものであり、彼が彼女のものである喜びを。
後悔はひとつもなかった。後ろをふりかえることは何もない。日光のなかで
彼女の顔をみることができた、きらめくすみれ色の瞳のなかに地上の天国を
みることができた、盲目になったことをすこしも後悔しない。。。
互いにしっかりと抱き合いながら、彼らの心臓はひとつの鼓動をうっていた。
そして上る朝日の温かさに顔を向けた。
Fin
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