2004年その8                     ラテンアメリカ映画リストへ


無分別 Indiscreet(1958年 アメリカ)

今みると、つい見過ごしがちだが、この映画って昭和33年なんだよね。
バーグマンがふらっと冷蔵庫を開けて、何か食べるもの無いかな?と
チーズを取り出したり、恋人と夜な夜な電話で話したり、
今では普通に感じるけれど、当時の日本じゃめったにお目にかかれない、
キラキラな外国の光景なんだよねぇ。
わたしは、その頃横浜に住んでたけど、一家に一台の電話が普及したのは
昭和42(1967)年頃だったし、日本で冷蔵庫の普及率が90%を越えたのって
昭和46(1971)年なんだ。

つまり、1958年にこの水準の暮らしをしてるアメリカって、
当時の日本から見たらとんでもなく別世界!
これほどの違いを感じることって、この先なにかあるのかな〜。

話を映画に戻すと、イングリッド・バーグマン扮する大女優アンナが、
NATOからも要職を請われる財界人のフィリップ(ケイリー・グラント)に
恋をする。フィリップは、女は好きだが、結婚はご免こうむるという
独身主義者。 彼は女性に結婚を迫られる事なく、気ままな独身生活を謳歌するために、
「妻がいて離婚するつもりはない」と嘘を公言してはばからない。

とんでもない野郎なんだが、アンナは「何も要求しない、今のままでいいの」と
ひたすら愛情を捧げる。
フィリップも、ラブラブうきうきで、ロンドンで行われたパーティでは、
ハイランドダンスを踊りまくる(あまりに間抜けで笑える)。

フィリップの嘘がばれて、アンナは仕返しを計画するんだけれど、、ま、ね。。

このオバカな自己中野郎、なんでもっと責められないの?
尊大な嘘のせいで真実の愛を失うところだったんだ、と、もっと反省させたいわっ!!
プロポーズしたんだからいいじゃん、だって?
ぬけぬけとまぁ、ずうずうしい。
苦手なはーれくいんR系列を読んだときと同じ気分で、、うーむ、
大人気ない反応になってしまった(笑)
(2004.12.14)
 
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The lighthouse   EL FARO DEL SUR (1998年 アルゼンチン)

自動車事故で両親と幼い弟を失い、自分も肺、内臓、片足が傷ついた
カルメーラ(愛称メメ 19才)と、9才年下の妹アネータの約十年の物語だ。

メメを演じるIngrid Rubio が体当たりの演技、清らかで痛々しい。

事故当時10才のアネータは、薄れてゆく記憶を確かなものにしようと、
家族のアルバムを片身離さず持ち歩き、開いている。
だが、メメはそのアルバムを隠してしまう。
彼女にとって、過去は思い出したくないもの、忘れたいものなのだ。
醜い傷あと、常に痛む腰とひきずる足、子供を生めない体・・

ウルグアイに住む叔母のもとに一旦引き取られたが、すぐにふたりだけで
暮らすようになる。
メメの恋、踏みにじられる愛、アネータとの喧嘩、

妹ほど愛する者はいないのに、妹が釣りをして、海で泳いで、浜で走って、
ダンスをして、恋をして、、その姿をみるたび、妹ほど自分を傷つける者も
いないと感じるメメ。
この、時に優しく時に残酷な薄い刃物のような感情が、いたいほど伝わる。
なんとなく山岸涼子を思い出した。

アネータが恋をした若者、ハビエルを嫌うメメ。
運命の皮肉と、アネータとハビエルの別れ、実にうまくラストにつながる。

現在のとある一日と、過去10年ぐらいの話が、行ったりきたりするので、
最初、少しとまどうかもしれない。
だが、かつてバーだった場所に主要な人間が集まり、止まっていた柱時計を動かすと、
過去の物語が入り込む流れといい、バーの外では終始雨が降っているが、
最後の最後、雨があがるというように、まるで美しい彫刻のように構成されている。
家族のアルバムが最後に再び登場し、ひとつの物語は終わったが、次の物語が
始まることを予感させる・・。


#ハビエルを演じているマリアーノ・マルチネス ( Mariano Martínez ) が
これまたクラっとするほど良いの。やだわ〜、わたし、アルゼンチン映画をみるたびに
こんな事言ってちゃ(自爆)。
彼の次の主演作「Peligrosa obsesion」(2004)は、ものすごく評価が高い。
南米で興行一位になったそうだ。
やばい、英語字幕DVDが出てる・・うわっ、これではいつまでたっても
とまらないゾ。
(2004.12.14)
 
 
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Camila (1984年 アルゼンチン・スペイン)


マリア・ルイサ・ベンベルグ監督作品。
かつて公開されたときの邦題が「カミーラ/不倫の恋」となっているが、
不倫というと違和感あり。名家の未婚のヒロインと、カソリックの神父の禁断の恋である。
ま、神父さんは神様と婚姻を結んでいると考えると不倫かもしれないけどね・・

あらすじはgoo映画にものすごく詳しく書かれている。

で、DVDには製作者ノートがついていて、当時のアルゼンチンが解説されている。
この話は実話に基づいていて、民衆に良く知られた話なんだそうだ。

フアン・マヌエル・デ・ロサス (Juan Manuel de Rosas) による軍事圧制に
おもねる教会や支配階級、それに翻弄され踏みにじられる個人の尊厳。
物語は1840年代であるが、同じような状況が今も世界の至るところで起きている。
だから、1983年にアルゼンチンの軍事独裁が終焉を告げるやいなや、
ベンベルグ監督はこの作品をすぐに撮りたいと思ったそうだ。
「メロドラマと言われることを恐れたりしません。そこに感情があるかぎり、
思いは伝わるはずだからです」


ざっとネットを見て回ったところ、どこにも説明が書いていなかったので、
それをここに付け加えると、
物語の中で、みなが胸に大きな赤いリボンをつけている。
神父も着任早々、リボンをつけさせられる。
この赤いリボンは、ロサス将軍が自分の名前にちなみ「赤」を大変に好んだため、
すべてのものを赤くするか、または赤色リボンをつけさせたという歴史上の事実から
きている。だから兵士の軍服が赤である。

カソリック教会といえどもへいこらと将軍に従順を誓っている様子が、上級司祭が
ヒーローの胸にすぐにリボンをつける様子で伝わってくる。


#みーはー的には、もだえる神父(イマノール・アレアス)がツボである。
高熱にうかされるシーンは、、あぅっっ・・
カミーラは積極的で信念の女性だが、神父は、悩んで悩んで悩んで。。(^m^)くっく
首までしっかりしめたカラーをはずし、シャツを脱ぐと、あぅっ。。
濃いんである。
見てはいけない体を見てしまったようで、つるつるの胸と違って思い切りどぎまぎする。
実話だから仕方ないが、甘ちゃんの本音を言えば、カミーラを連れて逃げて欲しかった・・
(2004.12.17) 
 
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THE CRIME OF PADRE AMARO   El Crimen del padre Amaro (2002年 メキシコ)

邦題は「アマロ神父の罪」
新人神父アマロは、メキシコの田舎町ロス・レジェスに赴任する。
彼は司教のお気に入りで、いずれはローマへと期待されている若者だ。

教区は大病院施設を建設中だが、その資金は麻薬王から先輩神父ベニートに
提供されたもので、ふたりの癒着関係を新聞社がすっぱ抜く。
アマロは、司教の使いとして、新聞社に赴き、新聞社への広告をストップすることを
ちらつかせながら、記事への反論と、記者の解雇を要求する。

あれ?あれれ? 最初、純真な雰囲気を漂わせていたアマロ(ガエル)に、
わたしは、てっきり犠牲者とか被害者のイメージを抱いていたけれど、
違うのね、かれはエリートで野心家なんだわ。。

一方、貧しい山村を教区にもつナタリオ神父に、ゲリラとの関係が囁かれ、
破門を司教がちらつかせると、アマロはナタリオ神父の活動に心から共感を持つ。

カソリック教会での出世を心から望む野心家の切れ者だが、一方で心優しき人でも
あるアマロが、16才の少女から熱烈な恋心を打ち明けられると・・・


これはキリスト教に通じていない者と信者とでは、受け取り方が全然違う映画だと思う。
つまり信者であれば、神を冒涜するいくつかのモチーフに衝撃を受けるだろうし、
信仰と肉欲だの、堕胎だの、考える要素があるんだろう。
そもそも、125年前のポルトガルの小説を元にしているので、
メキシコの現代的要素を加えたとしても、中心テーマは「聖と俗」なんだろう。


だが、わたしはキリスト教に通じているわけではないので、
この映画は、尊大で自己中で卑怯な、人間の弱さを丸出しにした、
エリート青年の物語として受け止めた。
困ったときだけ必死に神様にすがる滑稽さ。
神なんてものを本当は信じていない、それこそがアマロの「罪」だと思えてならなかった。

ガエルの表現力が光り、最後の最後まで腹立たしくて、後味悪し。。。

善良な人々が傷ついて、悪人がのさばる、と書くと、ちょっと強すぎる言い方だが、
そんな感じで、なにも変わらない。
真面目な記者、真面目な寺男、善良な娘、すべてが自分の出世を望む若者に
人生をぶちこわされる。

ラストにわたしはうちのめされたヨ。

地母信仰と結びついたキリスト教は、中南米特有の不思議な猥雑さがあり、
メキシコ映画独特の混沌と血を感じさせた。
メキシコ映画だから、この後味悪い終わり方でOKなの? そういうもんさ、って
彼らは考えるの?


#ガエル君、きみはなんで、いつも瞳がキラキラとガラスのように輝くの。
不思議だ。。ほんま、最低の若者を演じても、きみがやると、人間の心の弱さに
同情しそうになるから恐いわ。。
(2004.12.19)
 
 
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Amor Bandido  (1979年 ブラジル)

けっこうブラジル人の映画監督では名の知れた人である、ブルーノ・バレット監督作品。
といっても、わたしはこの映画を見るまでブルーノ・バレットという名前を知らなかったんだが(爆)。

調べてみると、1955年リオデジャネイロ生まれ。
「ドナ・フロールと二人の夫(1976)」で有名になったそうだが、当時若干21才だ。
本国ブラジルで1200万人という前代未踏の最高動員記録。米国でもヒットして
82年にはハリウッド版リメイク「キスミー・グッバイ」がつくられた。
最近はずっとアメリカで仕事をしている。

で、この映画であるが、う〜ん、なんとも、、暗くて陰惨で、救いが無い。
画面は紗がかかったようで、湿っぽい。
英語字幕で見た。

ストーリーは、sexと殺人と警察暴力で寒々としている。
売春をしたことで14才?で家を追い出されたサンドラはストリップダンサーを
しながら暮らしている。ある若い男トニーニョと知り合い、強引に体を奪われるが
ふたりは一緒に暮らすようになる。トニーニョは実はタクシー強盗殺人をして
生活費を稼いでいる。
連続タクシー強盗殺人を捜査している刑事はサンドラの父親である。

父親らしくサンドラの様子を気遣っているか、と思うと、そうではないところが
無情で、腹にじわじわと冷たいものが広がる。
荒涼とした親子関係、先のない10代の男女の恋の物語だ。
 
 
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Un Lugar en El Mundo  A Place in the World (1992年 アルゼンチン)


アリスタライン監督は一貫してアルゼンチンの抱える問題に真正面から
取り組む人間ドラマを撮っている。
鋭敏な思考、骨太なドラマと同時に美しく詩的な映像が素晴らしい。

マリオ(フェデリコ・ルッピ)は52才、アナ(セシリア・ロス)は36才くらい、
元大学教授と女医の夫婦、僻地で、羊牧場で生計をたてながら暮らしている。

彼らは元々ブエノスアイレスに暮らしていて、軍事政権で失踪者が
出始めた頃、命の危険を感じて亡命、スペインマドリッドで8年暮らしたのち、
民主政権になったのを機にアルゼンチンに戻ってきた。
だが、ブエノスアイレスで以前と変わらぬ顔でミドルクラスの生活をすることは
もう自分たちには出来ない、と感じ、都会から遠く離れた開拓地に移り住んだ。

こうして祖国に戻ってきたように、捨てる事の出来ない自分の場所を見つけたい、と。

辺境地方の人々の生活の質を上げたい、小さい理想郷をつくりたい、
マリオは文字も読めない子供たちのために学校をひらき、
貧しい羊農家たちを組織して、協同組合をつくり、
アナは診療所をひらく。4年たち、マドリッドで生まれた息子エルネストも12歳。

こんなに身を尽くしているのに、土着の者たちから見ると彼らは余所者である。
そしていやおうなしに現実の波が襲ってくる

羊毛を安く買い叩こうとする有力者。
組合で団結しようとしても、貧しい者は、今、現金が欲しいから、抜けがけしてしまう。
そんな状況下、かつて立ち消えになったダム建設のプロジェクトが多国籍企業の
資本によって再開されようとしていた。。
スペインから調査のために地質学者がやってくる。
有力者が羊牧場を地上げしだす。
貧しい牧場主たちは、売ったほうが得だと言い出す。
ダム工事を当てにして沸く地元。

とても苦いドラマだ。
軍事政権崩壊後の、多国籍企業に土地を切り売りしだしたアルゼンチンの現実だろう。
ほとんどやるせないが、でも、12歳の息子は父親の思いを受け止めるし、
そんなふうに少しだけ何かが伝わっていくのかもしれない。

地質学者ハンスがエルネストに語る鉱物の話がとても美しくて忘れ難い。
(2004.12.23)
 
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愛と性の人妻日記  Alem Da Paixao (1985年ブラジル)

ブルーノ・バレット監督。
これがねぇ、日本版のビデオパッケージを見ると、とんでもない映画に見えるんだけど、
実はまっとうなロードムービーなのだ。
ビデオパッケージのオモテ裏ともに、エロエロなんだが、そっちを期待して買った人は
きっと怒ってしまうだろう。
なんせ、オモテの股間も露な金髪ねえちゃんは、映画に出てこない(爆)。
呆れるほどひどい詐称商品なのだ。
反対に、真面目なものを期待して買った身としては、家族にも友人にも
見せられない赤面パッケージの保存場所に悩むわけである(笑)。

原題は、Beyond Passion  、私的には「欲望の果て」とか「燃えつきて」ぐらいが
良いと思うが。。とほほ・・・
きわどい性描写など、「アモーレスペロス」や「天国の口、終りの楽園」に比べたら
まじで赤子のようだが、題名を口に出すこっ恥ずかしさは数百倍だぁ〜。
邦題つけた人、出て来ーい(爆)。

ブラジルの富裕層のヒロインはビジネスマン?の夫と小学生の娘と息子をもち、
自分もデザイン事務所だか建築事務所を切り盛りしている。
白く大きな素敵な家に暮らし、一見しておかたい雰囲気のヒロインは、
よき妻よき母親といった30代の女性だ。

ある日、となりの車から突然男が、彼女の運転する車に前に飛び出してきた。
渋滞中だったから怪我には至らなかったが、彼をそのまま車に乗せる。
彼は一目で男娼とわかる格好をしており、彼女に「助けてくれ、俺を救えるのは
あんただけだ」と言う。

彼は彼女のバッグから現金などを盗んで消えてしまうが、ゲイのショーをやっている
店のマッチを残していく。

お金を必要としている若い男、彼を救えるかもしれないと夢をみてしまうヒロイン、
男はなんとか今の最低の生活から這い上がりたいと思い、コカインを安く仕入れて
売りさばこうと、彼女に嘘をついてお金を無心する。
サンパウロまでの道中で色々なハプニングが起こる・・・

お嬢さん育ちのヒロインが苦い現実を受け止めて強くなって元の生活に戻ってゆくまでを
たんたんと描いている。
  
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シティ・オブ・ゴッド  Cidade de Deus (2002年ブラジル)

この映画はとてもリアルだ。
製作側が、リアルさを一番に心がけたという通り、内容も出演者もロケ場所も
すべてがとてもリアルだ。
とてもリアルで、とても重い。。
1990〜2000年のブラジルの現状で、実話に基づいている。

貧困、福祉/公共政策の不備、劣悪な環境、、子供たちが簡単にドラッグの売人になり、
暴力の泥沼にひきずられてゆく様子と、警察機構の堕落、賄賂が克明に描かれる。
救いの無いラストに震撼とさせられる。

重い内容の一方で、映画のスタイルはとても洒落ている。
軽快なカメラワーク、リズミックで切れのよい編集、センスのよい音楽、
この不思議なアンバランスは、これこそ本当に今のブラジルを感じさせる。
まさに、これほど現代的な社会に、これほど暴力と貧困に満ちた生活が隣り合わせで
存在してるのだ。

出演者たちの演技が素晴らしい。
彼らがほとんど素人だというのが驚くばかりだが、メイキングを観ると、
これもまた感動させる物語になっている。
スラムのコミュニティで、オーディションを知らせて、数千人の面接の後、
200人にしぼり、その彼らを半年以上、演技指導したのだった。
脚本もセリフなどは無く、ほとんどが彼ら自身のアドリブに任せたと言う。

まさに、役の人物になりきった感情が画面から迸る。
強烈なメッセージがしんどい、と感じるかもしれないが、見て損はない映画だ。

製作総指揮がウォルター・サレスである。
(2004.12.30)
 

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