2005年その4                  ラテンアメリカ映画リストへ


運命を分けたザイル Touching the void (イギリス 2003年)

おそらくこの映画を評価するとき好き嫌いの分かれる大きなところは、
当事者たちのインタビューを折々にはさんだところだろう。

そして、それこそがわたしにはとても重い部分で、これが入ったおかげで
単なる映画を超えたと思う点でもある。

有名な実話、遭難して帰還した登山家(ジョー・シンプソンとサイモン・イェーツ)の
物語である。
ジョーのノンフィクション「死のクレパス」を元にしている。
だから、今時のネット時代、ちょいと調べれば粗筋はわかるし、
そもそもジョーの原作があるってことは、ジョーは生還したってこともわかってしまう。

「スクールウォーズ」にするか、「プロジェクトX」にするか、

そういう意味で、これをただの再現映画にせずに「プロジェクトX」にしたことは
とても興味深かった。

と、簡単にここで書くが、この映画を見れば、再現などという言葉がどれほど
とんでもないことか、すぐにわかる。
信じられないような難所である。こんなところに登ろうと思う奴は狂気の沙汰だ。
舞台はペルー、シウラ・グランデ峰。6000mを越す山々が人間をあざけ笑っている。
こんなところを登るどころか、撮影までしたとは、
到底信じられない。
一体どうやって撮影したんだろう。よくもスタッフが皆ついてきてくれたものだ。
CGを使っていないなんて、まさか、、映画制作者のエナジーにも圧倒される。

気圧の低い高所、極低温、強風、不安定な足元、黙々と登頂する役者たちと並行して、
本物のジョーとサイモンが当時を振り返る。
映画の役者たちにはほとんどセリフがない。そりゃそうだ、雪山登りながら、
死にそうに疲労しながら、極限まで神経を使いながら、誰がしゃべるっていうんだ。
登る、止まる、登る、止まる、手に汗をにぎるほどの緊張感。

そして、人はこういう時に何を思うか、、それを当事者たちが淡々と語る。
この「淡々さ」が、人間の強靭さと共に呆れるほどの無邪気さを伝えてくれる。
「そこに山があるから登る」 まさにそれだ。

そして、事故が起き・・・
自分というものを問われる瞬間があり、そこで、「正しいだろうが、
間違っているだろうが」選択をしなければならない。

命をつなぐロープ。
恐ろしいほどの選択の重み。
ひとりは選択を受け入れ、ひとりは選択した責任を背負って生きていかなければならない。

苦痛と絶望を経た者たちには、今なお背負っているものがあるだろう。
おそらく別々にインタビューしている。ふたりは横に並んですわっていない。
この登攀以降、一緒には登山をしていないらしい。

だが、イギリス人らしい、感情をあまり見せないふたりの語りには
決して恨みや愚痴などは入っていない。
人間ってすごいな。。と、言葉も出ない。
神を信じないと言い切るジョーに圧倒される。。


これほど悲惨なのに、いかにもイギリスらしいユーモアがあるから、これまた驚く。
死の際にいると言うのに、好きでもないボニーMの歌が頭の中をぐるぐると
回り続け、ぼやくシーン。
小便とズボン。
分かりすぎるほど分かる。思わず笑えてきて、人間って奴はほんま、すごいな、と
また思った。

(2005.03.10)
 
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ブエノスアイレスの夜 Vidas privadas (スペイン・アルゼンチン2001年)

”声”をきっかけに禁断の愛へおちてゆく男女の切なく情熱的な愛、という
キャプションも間違いではないが、なんだかなぁ〜・・というのが感想だ。

セシリア・ロスとガエル・ガルシア・ベルナウを観に行ったと割り切ってみるべし。
セシリアの元夫(この映画のあとで離婚した)フィト・パエス監督は
気合は十分だったのかもしれないが、ふろしき広げただけで終わった感がある。

軍事政権下の出来事がトラウマになっているヒロイン。
秘密を20年間隠し続けている家族。

ここにもっと焦点をあてるべきだが、秘密の重みは映画ではあまりに軽く、
20年後にはみながベラベラと秘密をしゃべる。をいをいっ。
妹が大事な狂言回しのはずだが、いまいち存在感に乏しい。
映像はとても美しいと思ったが、音楽は思わせぶりで聴いていて赤面しそうだった。


「こんな結末も悪くない」と最後にヒロインに言わせてるが、
それを言っちゃぁおしまいよっ。


よく考えてみると、5年ごとの、わずか2週間の滞在予定だったわけだし
その間くらいカルメンは禁欲してもよいんではなかろうか?
わざわざアパートを借りてまでスルことはないんじゃなかろうか?
いや、2週間も我慢するなんて、とんでもないことなんだろか?(真面目に悩むな! 爆)


# ガエル君のあの「ポスター」。ほんま、きれいだわ。。
つけ毛疑惑で、わたしは「本木雅弘」の写真集を思い出してしまった(ふるっ!)
 
 
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運命の女 Unfaithful (2002年アメリカ・ドイツ・フランス)

上手い役者の見事な演技、、であるが、ストーリーはほとんどワイドショーレベルって感じがする。
こういう映画って悩むよねぇ。

あの日、あの時、ああしなければ、、運命の分かれ道があって、
小さな心の隙間から、家は壊れてしまう。
強風が、行く末に待っている「崩壊」を暗示していた。
と、出だしはワクワク感があったのだが・・・

あとは何の捻りもない。感情の赴くままにストーリーは続く。
ポール・マーテルが可哀想でたまらん。富裕な人妻の満たされない隙間に
出会ったのが運のつき。

しかし、ダイアン・レインは見事だった。
夢のような淫らで放埓なセックスに夢中になりながらも、崩れた風情をみせない。
一番責めを負うべきなのに、観客に「仕方ないかも」と思わせてしまう。
ふたりの男を破滅させた女だった。
(2005.03.16) 
 

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ブリジット・ジョーンズの日記 きれそうなわたしの12か月
Bridget Jones: The Edge of Reason 
(2004 英・仏・独・アイルランド・米)

続編は、正直いって、少しがっかりした。
正編で感じられた「自嘲気味のシニカルさ」が消えて、ただの痛いドジ女に近くなり、
お話の展開もお約束なよくあるHQ展開となっていた。
それはそれで好きだし、十分面白いのだが、期待していたものとは違ったのだった。
ま、きっと少数意見だけどね。

タイで大ピンチとなったブリジットを救う白馬の騎士ダーシー、
あれほど保守的な権力に辟易していたのに、やっぱ最後に頼れるのはコネと力?!
いい加減男ヒュー・グラントとケンカしてくれる堅物コリンファース、
甘いセリフは言わないけれど、保守もやるときゃやるぜっ?!
女の幸せはやっぱ結婚?!

革新をきどっていた女も、年食ってくりゃ、保守的になっちゃうのよってわけね。
ラブコメは結局王子様のプロポーズで締めるしかないんやろねぇ・・
(2005.03.25) 
 
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ザ・パイロット For the Moment (1993年 カナダ)

ラッセル・クロウが若くて、なんともしまりがない・・(ゴメン)
映画も、、う〜むむ、、
第二次世界大戦中のカナダ。
英国連邦の多くの若者がパイロット訓練のために集められていて、
ラッセルクロウ演じるヒーローもオーストラリアからやってきたわけだ。
訓練が終れば、戦場へと飛び立ってゆく。
平均的な生存率が6週間って言ったっけ? そういう会話をしていた。

人妻との恋があるんだけれど、禁断の恋とか死を前にした凛々しい若者って風に
見えなくて困った。とほほ。
面白かったのは、「Waltzing Matilda」を歌うラッセル・クロウが見れたことかな。
 
 
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非常戦闘区域 Guerreros (2002年スペイン)

はたしてどこまでが真実ぽくて、どこまでが嘘丸出しなのか、スペイン軍の事を
全く知らないから、よくわからないが、この映画に登場するスペイン兵たちは、
規律は緩いし、訓練もさほどされていない、素人に毛が生えた程度の兵隊たちなのだ。
いつトラブルが起きてもおかしくない兵隊たちなのだ。

だから、戦争ものというよりも、平和慣れしている若者が突然不条理な
「ヤルかヤラレルか」という世界に投げ込まれてしまいサバイバルをする
悪夢の二日間の物語と言ってもよいかもしれない。

しかし、映画を見ているうちに、それが内戦の真実の一面でもあると思い至った。
どちらが正しいとか、なにが原因だとか、そういう条理はとっくの昔に失われ、
紛争地帯は、ヤルかヤラレルかの世界になっているのだ。

1999年コソボ、アルバニア人とセルビア人の不毛の戦争。
そこに派遣されたNATO多国籍軍の一員としてのスペイン小隊。
誰のために、どちらのために、何のためにいるのか、答えを見つけられない・・
自分が生き延びるために、セルビア兵士を殺し、アルバニア兵士を殺し、
はては民間人をも殺してしまう。。

そして、唐突に、終る。「終ったんだ。もう終ったんだ。」とノンポリ中尉が言う。
「へ?」って思うが、
実は、戦争って奴は、そんな風に終るものなのかもしれない。。


#主役のヴィダルを演じたエロイ・ アソリンって、「オール・アバウト・マイ・マザー」の
セシリアロスの息子エステバンをやった子なの?
えー!こんなに綺麗だったっけ? どしゃっ、かみそりで切れるほどきれいだわ(意味不明)。
で、ネットを調べたら、うわっはっは、リンクを張らしてもらってるikukoさんの
見た目チェックで、ちゃんとチェックされてる(笑)。
 
 
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クアトロ・ディアス O Que E Isso, Companheiro? (1997年 ブラジル・アメリカ)

原題の意味は、「きみ、それは何だね?」What is That, Companion?
このセリフをいつ誰が言ったのか、全然わからなかったのが残念だわ。
吹き替え版でもあればなぁ。
で、
英語題が「Four Days in September」だったことから、邦題はそれのポルトガル語訳。

ブルーノ・バレット監督のものを見るのもこれで3本目だが、映画が洗練された雰囲気に
なっていて驚いた。

1969年、ブラジル軍事政権下に実際に起った米国大使誘拐事件に基づいている。
米・ソ冷戦下の南米は、反共を大義名分にアメリカが支援した軍事政権の時代なんだと
つくづく思う。

アメリカ大使を誘拐し、引き換えに政治犯の釈放を要求するテロリストグループ。
銃にあこがれる狂信者もいれば、純粋に自由社会を求める者もいるし、
プロの革命家もいる雑多な集団だが、若者たちはあまりに幼い。
対する秘密警察側は、テロリストの拷問を常とし、矛盾を感じている者もいるにはいるが
だからと言って何が変わるというものでもない。
アメリカ大使は好人物だ。

なんというか、最初から勝負は見えている。
幼いテロリストたちは、秘密警察の敵じゃない。すぐにアジトはばれる。
アメリカ大使の身柄が大事だから、とりあえず要求は呑むが、そのあとは
みんな捕まってしまうのも時間の問題だ。

そう、とても空しくて苦々しい映画である。
テロリストグループのそれぞれの心理をとても丁寧に描いていて、
緊迫感あるドラマに仕上げているが、軍事政権への怒りというよりも、なんていうか、
どうすることも出来なかった空しさを描いた感じである。
最後に写る若者たちの表情が、すっかり老いてしまったのが悲しい。
 

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