2005年その12


ベルベット・ゴールドマイン Velvet Goldmine (1998年 英・米)

実は見終わってから、主役としてフューチャーされているのがクリスチャン・ベールではなく
ユアン・マクレガーとジョナサン・リス=マイヤーズなのに驚いた。
そう、わたしは映画を見ている間もずっと、クリスチャン・ベールが主役だと思っていた(笑)。

舞台は1984年のロンドン。10年前若者を熱狂の渦に巻き込んだグラムロックシーンを、
ヘラルド紙記者が自己の青春とともに振り返るという設定だ。

2人のシンガーを巡る物語なんだが、洋楽音痴のわたしにはぜんぜん分からない。
デビット・ボウイとイギー・ポップがモデルと言われても、はぁ、そうですか、という無知なのだ。

だから裏話的要素にも興味はないし、流れる楽曲にも興味がわかない。それなのに
面白いと感じたのは、ベール演じる記者が、自分自身のイモな青春時代を振り返る、
そのこっぱずかしさだ。
まさに大人の入り口一歩手前にいる、若さというこっぱずかしさ。
イケテナイ自分、イモな自分、自分のまわりに屈辱のネタがごろごろしている時代。

10年後の、クールな雰囲気を漂わせた記者ベールと、ほっぺを赤くして格好だけ
流行を猿まねしている田舎もんべール、いやはや呆れるほど上手いねぇ。
なんてかっちょわるいんだ、と赤面しながらも、
かっちょわる〜〜っいベールになぜか自分自身を重ねてしまうわたしだった。
(2005.12.17)

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ワン・ナイト・スタンド One Night Stand (1997年アメリカ)

ウェズリー・スナイプスとナスターシャ・キンスキーのロマンスものなんだが、
はっきり言って、ロバート・ダウニー・Jrの名演技がなければ、
「金返せ〜〜っ!!」映画である。

エイズに病む親友を見舞いにNYにやってきた売れっ子CMディレクター。
ふとした事で美しい女性と知り合い一夜を共にする・・
お互いに結婚している身。
で、、どうなるんかなぁ〜と思っていたが、途中で嫌な予感がした。
予感はしたんだが、いくらなんでもそんなひどい落ちにはならんだろうと映画を
信じてみた、、が、やっぱり・・・トホホ・・・かばやろーー!

ストーリーさえ気にしなければ(爆)、出演者はなかなかに面白い。
久々に見るナスターシャは美しいし、何をやっても普通じゃない人のようなカイル・マクラクラン。
そして、極め付きはロバート・ダウニー・Jr。

エイズ感染が分かった頃の不安を必死で押し隠す彼と、病床の彼、、
その存在感と苦しいほど何かを訴えかける瞳がハート直撃である。
(2005.12.17)

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28日後・・28 Days Later... (2002年 英・仏) 

これって評価高いの? 監督さんが有名?
う〜ん、はっきり言って脚本が破綻しているって思うんだけどなぁ。
キリアン・マーフィーを見るため以外に見所少なし、ってのがわたしの感想なんだ。。

前半はちょっとワクワクした。ジム(キリアン)が病院で目覚めて、無人のロンドンを
さまようシーンなんて、その荒涼とした都市の死の映像に震撼とさせられた。
「凶暴ウイルス」に感染して人間を殺そうする大多数 対 ごくごく少数のサバイバー。
都市機能は完全に麻痺し、電気もない、水もない、トイレも流れない。
加工食品を無人となったスーパーから取ってゆく以外食料調達のすべもない。

何のためにサバイブしようとがんばるのか、生き延びることに意味があるのか?
このテーマをどんな風に推し進めるのかと期待してたら、、ありゃりゃ、、
後半は、よくある「漂流教室」ものになってしまったようで、肩透かしだった。

だが、ちょっと待て。根本的におかしいぞ。
感染者たちはほっておくと餓死するって言ってたじゃないか。不死身のゾンビじゃないんだ。
だから、じっと冷静に持久戦を続ければ、サバイバーたちは生き延びれるはずなんだ。
それなのに、なぜ内輪もめして自滅するんだろう?矛盾してるぞ。
頭の悪い連中しか生き残っていない、ってのが、いやだなぁ。

さらにだ、そもそもウイルス感染ってのが一番気に食わない。え?真面目に考えるな?(笑)。
だってね、血がポトッとはいって30秒で症状がでちゃうんだよ。ウイルスなのか〜、、なんて
疑問にも思わずに見れる人の方がどうかしてるよ〜。

ウイルスは、血液感染だろうがなんだろうが、体内に入ったウイルスが標的細胞に
はいりこみ、その細胞の機能を損なうとか変化させるとかしない限り、症状は出ないはず。
瞬時に作用する青酸カリのような毒物や、食中毒のような細菌毒とは機構が違うんだ。
せめて一日たって発症してくれなくちゃ。
っていうか、そこがウイルス感染の怖いところで、潜伏期間があるからこそ怖いんじゃない?
よく知っている人がふいに凶暴化する、いったい誰が感染しているのかすぐには分からない、
って方がずっと怖いと思うんだが。。

ほう、そうか、この感染は「不気味さ」を伝えたいんじゃなくて、「唐突さ」を
伝えたいのか。突然の世界崩壊、突然の人格崩壊、突然の事態にヒトは思考停止で
戦うんだって言いたいのかな。

#キリアン・マーフィーって、ぼや〜っとしてるのに、ふと、切れてしまう、そんな
危うい感じがいいんだよねぇ。冷たくなったり熱くなったり不安定な雰囲気なんだ。
(2005.12.20)

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ダブリン上等! Intermission (2003年 アイルランド・UK)

冒頭、コリン・ファレルのチンピラぶりにやられる。
え・・こんないい役者だったのか。

デカイことをしてこんなしょぼい暮らしからおさらばしたいと願うチンピラ。
社会の暗部は理屈じゃねえんだ、とチンピラを追う、すこし危ないおまわり。
彼女の心をためそうとして、わざと別れを告げたら、捨てられちゃった男。
年上の男とつきあう女。インポな男。マイホームパパ。
最初無関係だった登場人物たちが、巧妙につながり始める。

ブラックで、哀しくて、イカれてて、優しい。

人生の中で、先が見えずにちょっと足踏み状態になっている時、津波のように
混乱したとき、道標べは「愛」なのか?

アイルランド訛り炸裂で、あの顔、この顔、いかにも!のアイリッシュ。

初映画脚本のマーク・オローと初映画監督のジョン・クローリーと味のある役者たち
幸福な出会いだったと思う。

唯一、腹の虫が収まらないのは、あの子供だ。天はなにとぞ制裁を!

#キリアン・マーフィー、お得意の不安定さがはまってました。アンバランスって
感じなんですよねぇ。そういえば声も繊細な顔に似合わない低音だし。
(2005.12.18)

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フォロウィング Following  (1998年UK)

一時間ちょっとしかない低予算映画(制作費6000ドル)で、出演者やスタッフは
他にフルタイムの仕事をもっていて、毎週土曜日に集まって作っていた、というんだが、
傑作なんである。

やっぱ、映画って才能だと、つくづく思わされる。
脚本アンド監督はクリストファー・ノーランだ。このとき28歳。
白黒フィルムで、人工光を使わない映像は大変スタイリッシュだ。実は予算が
足りなかったからだというが、その障害を逆手にとってノスタルジックな
犯罪サスペンス映画になっている。

時間軸がひとつではなく、過去と現在が随所で切り替わるが、主人公の服装と
髪型が「過去ー長髪でジャンパー」「現在ー短髪でスーツ」となっているので
すぐに見分けがつく。このフィルム編集が唸るほど巧みで、つねにネタばらしが
あとからやってきて、えっ、そうだったのか、えっ、そうだったのか、と見ているうちに
ラスト、えーーーっ!!そうだったのかぁーーーー!

もちろんボロはつつけば出てくるだろうが、ミステリーとしての完璧さよりも
わたしがヤラレタのは、催眠術のようなストーリーテリングだ。

無職の孤独な作家志望の主人公が、街でふと気になった人を尾行して楽しんで
いるうちに、空き巣のプロと知り合う。その男は主人公に空き巣の手口を伝授するが・・

人間心理をつく鮮やかな語り口。空き巣に入った室内を観察するだけで
そこに住む人間を的確に描写する空き巣プロに幻惑されているうちに、
いつしかノーランの編むクモの糸に絡め取られている。
ロナルド・ダールの短編を読んでいるかのようだ。

#主人公と話をする刑事は監督のおじさんなんだそうだ(笑)。
(2005.12.22)

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マシニスト El Maquinista (2004 スペイン)

ブラッド・アンダーソン監督、クリスチャン・ベール、ってことで期待したんだが、
雰囲気だけの映画。
一年前から眠れない、他の誰もが見えない男が見える、、
もうね、ハッキリ言ってよくある設定で、すじが見え見え。

思わせぶりもいいとこの、いろんなカットがあり、それが好きな人もいるのかもしれないけど
わたしからみたら、いかにもスペインホラー特有のはったり。
スペイン人の美的感覚にブラッド・アンダーソンが合うんだとしたら、あぅ、
この先ついていけるかなぁ・・・。
あなたはもっと論理的な人だと思っていたのに。。

映画のことは忘れて(忘れていいんか?!)、役者の話をすると、
「La puta y la ballena (娼婦と鯨)」や「ラブ・ウォークイン」で主役を演じた
Aitana Sanchez-Gijon アイタナ・サンチェス = ギヨン が出演していて嬉しかった。
美人!っていうのではないんだけれど、なんというか味のある顔で好きだ。

そして、クリスチャン・ベール、う〜、あんたはほんまクレイジーだ。
このシュールな映画の雰囲気を一応見るに足るものにしてたのは、あなたに他ならない。
他の役者がやっていたら、雰囲気すら陳腐だったろう。

お話の舞台はロサンジェルスらしいんだが、実際の撮影はバルセロナだ。
アメリカっぽくない、妙に暗くて寂しい雰囲気が、アンダーソン監督特有の色と合い、
綺麗だなぁと思うシーンもあった。。が。。いかんせん、おはなしが。。
こんな映画よりは断然「ワンダーランド駅で」や「ハッピィ・アクシデント」の方がいいのだ〜!!
アンダーソン監督、どうかどうか目を覚ましてくだされ〜っ
(2005.12.25)

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インソムニア Insomnia (2002 アメリカ)

これは97年のノルウェー映画のリメイクだが、ジョージ・クルーニーとソダーバーグは
いい加減リメイク権を取って来るの、やめたほうがいいんじゃない?
「オーシャンと11人の仲間」、アルゼンチンの「Nine Queens」、タルコフスキーの「惑星ソラリス」、、

ソダーバーグの「セックスと嘘とビデオテープ」(1989)を当時朝日シネマで見て、
どっかーん!と衝撃を受けたのが悔しくなってしまう。。

さて、この映画の話に戻ると、ロスの刑事ウィル・ドーマーは「マシニスト」と似たような
原因で不眠症になる。あちらは365日だがこっちは6日だ(負けた 笑)。
どんなに寝たくてもこっちは白夜。舞台はアラスカなんだ。なぜにロスからアラスカか?
っていうと、とあるサイコキラーの逮捕に関する不正で、内務省の調査がはいったから、
ちょっとロスから離れていろ、ってことみたいだ。

ま、オリジナルがノルウェーの白夜なもんで、アラスカに行かざる得ないね(笑)。

アル・パチーノは、いつもどおり上手いんだが、最近はなんかいつも同じ感じだ。
どの映画をみても、連続TVシリーズを見てる気がするほど、おんなじ感じだ。

ロビン・ウイリアムズが抑えた演技で、気味が悪くいやらしさ満点だった。

クリストファー・ノーラン監督なので、期待しまくりだったが、何かにとり憑かれた男を
描くには、刑事アル・パチーノは高潔すぎた。。
もっとダークに描きたかったんじゃないだろうか。
(2005.12.29)

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ロード・オブ・ウォー Lord of War (2005年 アメリカ)

今年最後の映画館での鑑賞となったが、2005年のMyベスト5に入る秀作。

実在の武器商人数人をモデルにしているそうで、映画の中の挿話はすべて実際に
あったことだという。ニコラス・ケイジ演ずるウクライナ移民のユーリ・オルロフが
辣腕の武器商人として名をあげるまでの半生を、毒気満々でブラックユーモアをも交えて、
残虐な紛争の歴史とともに描いて見せた。

冒頭からして、とんでもなくブラックな衝撃。
どこか遠くのよその国で誰が死のうと知ったこっちゃない、という私たちの頭を
ガツンとぶんなぐる。映画ならではの説得力だ。

中東も南米もアフリカも東南アジアも、醜い争いのあるところには「彼」あり。
「自分が武器を供給しないと、まともに戦争することもできない」

武器商人たちが武器を売りつけなければ、これほどの虐殺は起きなかったんじゃないか。
これほど悲惨な争いに発展しなかったんじゃないか。。そう思ったところで、
彼らからしたら、商品を売って「まともな戦争」ができるようにしてやったにすぎない。
売ったあと、商品をどのように使おうと、それこそ目の前の無力な人々を殺そうと、
「Not my business」なんである。
とにかく中央アフリカの紛争は目を覆うばかりの惨状で、やるせない。
小型銃こそが大量破壊兵器なのだ。

アメリカ、イギリス、ロシア、フランス、中国、、これらは国連安全保障理事国であるが
いずれも武器輸出大国でもある。武器はビジネス、売った後の事は知ったこっちゃない。
武器商人は国家と似たり寄ったりで、当然持ちつ持たれつ。逮捕されて有罪判決を受ける
ことは滅多にない。

アンドリュー・ニコル監督(兼脚本)はこうした現状に強い憤りの気持ちをぶつけているが
決して声高に糾弾しない。問題意識をエンターテイメントにしてみせる力も凄いと思う。
気づいていなかったが、『ガタカ』の監督兼脚本の人であった。
ガタカも面白くて、かつ鋭いんだよねぇ。作る映画に志を感じる監督はとても好きだ。

#ジャレッド・レトの瞳がとても綺麗だったね〜
(2005.12.28)



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