2006年その4


メルキアデス・エストラーダの3度の埋葬 The Three Burials of Melquiades Estrada
(2005 アメリカ・フランス)

トミー・リー・ジョーンズ監督作品。
脚本がGuillermo Arriaga ギジェルモ・アリアガである。

脚本が良く出来ている、俳優もいい、カメラも切ない、音楽もいい。
多くの孤独と破れた夢と、人間の尊厳があって、、パンドラの箱のような物語だ。

アメリカの国境警備隊に誤まって撃たれて死んだメキシコ人を、友人が故郷の
メキシコの村まで運んで埋葬する。
さっさと埋めてしまおうと、誤射をうやむやにして埋葬してしまう警察、
誤射した若者を暴力的に拘禁して墓を掘り起こさせ、死体をロバに載せる友人。。

決して友人との約束を守る「走れ、メロス」のような物語ではない。

3回の埋葬によって、ただの死体がだんだん人間になってゆく。
ひとつの線ー国境線を越えるだけで、人間が虫けらと同じになってしまう、
それが日常になっているなかで、誤射した若い隊員が他者との関係を血のかよった
ものとして捉え始める。

命の重みの物語、それだけでもない。

国境という問題、この土地を愛しているカウボーイはメキシコ人を迎いいれ、
土地を愛してもなく、田舎にうんざりしている人々はメキシコ人を追い払う滑稽さ。
死んだメキシコ人メルキアデスがみた夢と望み、
友の死体を運ぶ老カウボーイ(主人公のトミー・リー・ジョーンズ)の孤独、

男たち女たちの孤独とぬくもりを求める思い、映画は多くを語らないが、
人をみる確かな目がある。

わたしは最後のバリー・ペッパーのセリフに小さな希望を感じたんだが、どうなんだろう。
Are you going to be all right?
(2006.04.22)


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僕と未来とブエノスアイレス El Abrazo Partido (2004 アルゼンチン・イタリア・フランス・スペイン)

ダニエル・ブルマン監督

ブエノスアイレスの商店街に生きるユダヤ系の人々を、しゃべくりコメディで包みながら
将来を見つけられずにふらふらしている主人公青年の「出発点」を指し示す物語だ。

ブエノスアイレス特有の、早口スペイン語のうるさい事と言ったら!!
なんてうるさいんだっ、正反対に静かで観念的だった「アル・シエロ 空へ」のほうが
ずっと好みだわ、と思いながら見ていた。ところが、意外にも最後に行くにしたがって
ごちゃごちゃしていたものが、美しい着陸点に向かって降下する。
あなたの人生という「旅」はここから始まり、ここに帰ってくるのよ、、と。

主人公アリエルは20代後半なんだが、将来が獏としている子供のような青年だ。
祖父がポーランドからアルゼンチンに移民してきたので、ポーランド国籍の
パスポートを発行してもらい、ヨーロッパ人になろうと考えている。
経済の先行きも真っ暗なアルゼンチンで、自分が生きる意味が見つけられない。

彼の父親は彼が生まれるとほどなくして離婚し、イスラエルに行ってしまった。

ユダヤ人である事とは何なんだろう。
父親がイデオロギーのために家族を捨てたとは何なんだろう。

そんな小難しい事を映画が言うわけじゃないけれど、アリエルが何かもやもやと
自分に自信を持てずに人生を肯定できずに生きてる根っこには、
自分と父親との問題がある。

HQ読者なら結構気に入るアリエルの両親の「元さや」ストーリーも良し。
人生ってなんやおもろうてかなしゅうて、そやけど捨てたもんやない、ってね。

おばあちゃんが歌う最後の歌が素敵である。。
(2006.04.22)

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ザ・ウィナー The Winner (1996 アメリカ・オーストラリア)

ヴィンセント・ドノフリオが主演なので見てみたが、、、
をを、面白くなりそうだ・・・という予感だけで終わってしまった(爆)。

まさに、面白そうなのになぜこれほど面白くないの?と言いたいわ。

日曜日だけは絶対に負けない男がラスベガスに現れ、ワケありの男女が
彼に群がり、友人として、兄として、恋人として彼の金をくすねようと画策する。。
クレイジーにもつれてくるところが面白いんだが、引っ張りきれなかったか・・


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Salt on Our Skin (1992年 アメリカ)

英語字幕で鑑賞。ブノワト・グルー「愛の港」が原作だが、ヒーローをブルターニュから、
スコットランドの漁師に変えたため、スコッツ訛りのドノフリオを楽しむことができる。
原作では登場しないマシュー・アーノルドの詩「ドーヴァー・ビーチ」をモチーフに
加えたため、原作よりも恋人たちの切なさが強調された。
グレタ・スカッキとヴィンセント・ドノフリオはこの映画が縁で結婚し、
生まれた娘に映画のヒロインの名前ジョージアと名づけた、、そのロマンスが
見ていて伝わってくる。

スカッキは娘を演じるにはふけすぎ!なんだが、30年に及ぶ愛の軌跡をたどって
いるうちに、しっくりくるようになる。

この映画はインテリ女の痛いところをぐさぐさ突いてくる。
あぁ、ある、ある、ある、と嫌になるくらい分かるんである。
親密な行為のときは心底大事に思えるのに、みっともない観光地のおみやげを
選んだり、教養の無いジョークを言う姿にうんざりしてしまう気持ち。
世界が違うから結婚したくはないけれど、あなたの愛を捨てたくないという身勝手さに
きっと男の観客は腹が立つのではないだろうか。

でも、、映画なんてしょせん夢なんだから、夢をみさせてくれぇ〜・・・
アニマルくんなドノフリオ、空港で泣くドノフリオ、素朴な知性をみせるドノフリオ、
ひひひ、たまりませんです。。
(2006.04.26)


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Un oso rojo ( Red Bear ) (2002 アルゼンチン・スペイン・フランス)

Adrián Caetano監督作品。英語字幕で鑑賞。
「Bolivia」が素晴らしかったので期待したんだが、こ、これは、、う〜む。

殺人・強盗を働いて7年の刑に処せられた主人公が出所して元妻と娘に会いに来る。
妻は男が受刑中に離婚して、別の男と暮らしている。

男は支払われないままになっていた金をボスに請求し、
妻と娘と昔暮らしていた家をたずね、、7年たった今、どちらももう在りはしないのだ。
すべてを失っている男を動かすのは、動物的とでも言おうか、娘への愛情だ。
娘の暮らしを良くしてあげたくて、再びやばい仕事に手を染める。
王道のような話で、全然捻りもなく最後まで予想通りに進む。
なんか全然希望のない話なんだ。。

主人公のJulio Chávezが、チェルシーのジョン・テリーにちょい似てるってくらいしか
楽しみがなかった。。


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アンダーワールド:エボリューション Underworld: Evolution (2006 米)

おおいなる謎を残して終わった前作。マーカスの復活はどうなったの!!
というファンの期待を裏切らない作品に仕上がっている。
前作を見なくたって、そうは困らないように工夫された導入部分も良し。

あくまでダークでシリアスという路線は変わらず、クールでスピーディ。
この監督、恐ろしいほどの集中力だね。

ライカンとヴァンパイヤの殺し合いに、さらにいろいろと説明が加わり、
謎の答えもまあ納得がいくし、人間じゃないものに変わってしまったマイケルの
とまどいも切ない。
前回の男女の愛に加えて、兄弟、親子の愛もはなしを盛り上げる。

モンスター総出演でここまで格好良い話になった映画って、あんまり無いよねぇ。
最後なんて、お約束だっちゅうのに、わたしったらじーんとしちゃいましたヨ。

もう続きは無いのだろうか? アンダーワールド・スピンオフを希望!

#ぼかし入りのメイクラブシーンが残念です(笑)。
#コウモリの羽で身を包んで逆さになって眠るマーカス卿、よござんした。

GWにも関わらず客が少なかったのが勿体無いなぁ。。
(2006.04.30)


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アンダーワールド Underworld (2003 米)

ひたすら種の保存と掟のためにライカン(人狼)を殺し続けるヴァンパイヤ。
なぜ両者の戦いが始まったのか、どちらが先に仕掛けたのか、もはやほとんど誰も
分からない、過去を探るのは禁じられている、殺し合う事になっているから殺す
という不条理かつ今時な設定。
人間世界はかやの外。まるで何事もないかのように人間は暮らし、
暗黒ワールドだけが戦っている。

ライカンを処刑する仕事(人)ヴァンパイヤヒロインが、ライカンヒーローを愛して
しまうっつうB級調のストーリーに、マトリックスまんまの衣装、弱すぎるヴァンパイヤ、
こう書くと失笑を食らいそうだが、、これがどうしてどうして、いいんである。
あくまでダーク、シリアス、ゆるっとした遊びもなく、ほわっとしたシーンもなく、
緊張感あふれる編集で一気にラストまで疾走する。

クールだ。。ストーリーの構築、編集、スピード感、気に入ってしまった。。

真面目に考えるとオカシナところも多い、(昼にヴァンパイヤを襲えばいいのに、
ライカンは何やってんだろうね?とか)、(なんでヴィクター以外は能力の劣る
弱っちい、不死ってことしか特徴が無いヴァンパイヤなの? とか)
ま、パラノーマルに理屈を求めるのが間違ってるんだけど、でも、そんな疑問を
蹴散らすパワーがある。ちょっとしたセリフがツボをつく。
「共存」「愛」「殺し」「権力」のテーマがさ、なんか、勢いみなぎってるんだよねぇ。

悲劇なライカンリーダー、ルシアン役のマイケル・シーンの恋人だったヒロイン役の
ケイト・ベッキンゼールが、この映画のあと監督のレン・ワイズマンと結婚した
という下世話なおまけもツボだ(笑)。

文句はある。
ヒーロー、マイケル役のScott Speedman 彼があまりに普通だぁ〜。。。
「わたし、唯一なのに最大の文句があるんだけど何だと思う?」
息子「マイケル?」 ピンポーン! 誰だってそう思うよねぇ〜とほほ。
トラボルタとクレスポを足して2で割ったみたいな中途半端さがねぇ。悩ましい。
(2006.04.30)

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ウルフマン・リターンズ (2004年 アメリカ)

もしあなたがDVDを買っちゃったんなら、ばかやろー、金返せ〜
ま、150円レンタルなら我慢の範囲でしょう。

ウルフマンに噛まれてウイルス感染、自らの血に侵入した悪魔の遺伝子と闘うブリジット。
ウルフマンの血を抑える唯一の方法は、トリカブトの毒を注射し続けること。
それが切れた時、人間は魔獣に変身するのだ。だが、薬物中毒と診断されたブリジットは
更正センターに収容されてしまう。。運命と闘い続けるヒロインはいかに。。

というわけなんだが、自傷行為場面が一番恐くて、肝心のウルフマンってのが、アレ?
あの情けないお姿に涙が・・・
モンスターよりも恐いのは、やっぱり人間である、というお話なんだが、、
ブリジットが哀れだ・・
(2006.05.03)

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