2004年その6                     ラテンアメリカ映画リストへ


ビハインド・ザ・サン Abril Despedaçado (2001年ブラジル)

映画の原題は「Broken April」砕かれた四月という意味で、原作の
アルバニアの作家イスマイル・カダレの小説の題名と同じ。。

イスマイル・カダレという名前も知らなかったわたしは、カダレが久留米市で行った
講演のサイトを見て、ひたすらびっくり。。もしかして、著名な小説家なのね。。。
彼の著作を翻訳しているサイトもある。
日本では3冊が翻訳出版されている。

で、映画は、というと、
心臓鷲掴み!!
まず、この瑞々しい空気はいったいなんなんだ。雨の降らない青く乾いた空と大地なのに、
水の匂いがする。
愚かで哀しい人間の物語。生きる死者の物語。天使の子と人魚の物語。
これは内容を書きたくない。
ぜひぜひ観て欲しい。

サレス監督の上手さには舌をまく。
ツボをわきまえた無駄のない明解な作り。そこここにちりばめた隠喩、暗喩。
時折みせる神の視点。空気の震えと人の息遣いだけの緊張感。。
美しい魂に触れたような気さえしてしまう。

ブラジルの地方を舞台にしているが、描いているのは深く普遍的なテーマである。

原作のラストをちょっと読んでみると、映画とは異なるラストだった。
わたしは甘ちゃんなので、映画の方が好きだが、現実は原作に近い。。

素人の恐さというべき、子供の演技は言うまでもないが、
ロドリゴ・サントロの、生と死の間に立つ、無垢な若者像も素晴らしい。
死への諦観と生命のほとばしり、その対比を見せるにふさわしい純粋さだった。

#こんな綺麗な人を2時間近く見れるなんて、ちょーー幸せ。。
(2004.11.27)

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ユートピア Utopía (2003年スペイン)

「未来は変えられる」というテーマなのだが、もっとシンプルにこのテーマを
追うべきだったのだ。
監督が色気を出しすぎて、あちこち手を出しすぎた。
脚本の練りが足りなすぎる・・・

「こけおどし」というか、「はったり」を利かしてるだけなのだ。

重要なことと単なる背景なこととを、同じように描くので、
さも大事なストーリーなのか、と思いきや、ただの背景だったりする。
観ているほうは途中から、
あれ?あれってどうなっちゃったの?
あれ?あの意味深なセリフはなんだったの?
混乱するんである。

言いたいことは山ほどあるが伏字に(笑)
超能力集団のなかの軋みの謎。
 うーん、いつからこんなに人が減っちゃって、本屋が寂れちゃったの?
 うーん、連続爆破事件がパリで起こっていたなんて、最後になるまで全然わからなかったよ。
妻子が巻き添えになった元刑事の執念。
 うーん、爆破事件から6年もたっていたなんて、パンフレット読むまで、全然わからなかったよ。
 元刑事がいったいなんで拉致人質を救出するエキスパートになってるの?
ブルジョアな母親に反発したお嬢さんのボリビアでのボランティア活動。
 やたらリアルめいた映像を使ったわりに、虐殺された子供たちの意味合いは何?
 大量死はただの背景だったのか・・
 意味深なセリフのわりに、その後何もでなかったけど、あの母親、娘の生死なんか
 どうでもよかったみたいだったねぇ。なら、なんで有能な専門家に頼むの?
 あれって、言う事聞かないならこっそり殺してくれって意味なの?
 ヒロインは母親に会うために戻るの?
反政府ゲリラ集団の残酷な教義と、ケチな犯罪。
 ドラッグ密輸と殺人の関係がよくわからなくて、ただの無軌道ぶり。
 ヒロインが洗脳されるほどの理念が全然見えなかったねぇ。。
神父の謎。
 神父さんはヤク漬け?あのどろどろした液体は何??

とにかく、時間と場所が大変わかりづらくて、ドラマがどこで起きているのか、
しばしば悩んだ。特に、途中に6年もの歳月が流れている、という点は
大事なポイントなのだが、観ていて全然分からなかった。

俳優たちの熱演がもったいないドラマだったのだ。

主人公アドリアンと、彼の親代わりとなるサミュエルを演じるは、
アルゼンチンが誇る演技派スバラグリアとエクトール・アルテリオで、
元刑事はフランスの名優チェキ・カリョだ。
それがこうなっちゃうのね・・(涙)

最後に流れる歌も、限りなくダサイ・・・


#スバラグリアの顔だけみるなら、「カルメン」よりイケてる。
お約束のサービスなのか?、シャワー室のうしろ姿ヌードとか
もう、わけわかんないね(笑)
(2004.11.27)

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モーターサイクル・ダイアリーズ Diarios de motocicleta (2004年アメリカ)

アメリカ・イギリスの製作だが、ブラジル人のサレス監督以下、多くのスタッフが
中南米出身者であり、俳優もまた全員が中南米の者、会話はすべてスペイン語だ。

これもまた

心臓鷲掴み!!

サレス監督の空色、ツボをわきまえて手馴れているのに、決してマンネリではない。
枝葉の省略の仕方と、一瞬しか写さなくても心に残る物語の背景、下の「ユートピア」の
監督に勉強してもらいたいもんである(爆)。

医学校を休学して南米大陸を縦断する旅にでた若き日のゲバラとアニキ分の親友。
瑞々しい青春ロードムービーは決意を秘めて昇華する。

融通の利かない真面目な性格、といっても若々しい茶目っ気も色気もある。
内に燃える情熱と苦悩、夢や理想を追う純粋なまなざし、人を労わる心からの優しさ、
ガエル・ガルシアはまさにはまり役だった。
親友アルベルトのお調子ものぶりも、突き詰めがちなフーセル(ゲバラのニックネーム)を
理解した優しさが底に流れており、ふたりが最後まで旅を続けられたことを納得させる。

映画の題名は、逆説的で、実際の語りたいことはふたりがバイクを
手放した時から始まる。
ヒッチハイクで歩き出して、はじめて、目線が地面に行った。
本物に出会う旅になった。

クスコの遺跡とリマの雑踏。ここがひとつのハイライト映像ではないだろうか。。
これほど美しく高度に洗練された文明が、お金と物質の文明にとって変わって
しまったことを、映画は何も言葉では語らない・・・


わたしのような無知な人間にとって、南米大陸がこれほどひとつだと
感じたのは初めてだった。
そして、スタッフのほとんどが南米の俳優や音楽家であり、
これほどのものが作れるということに圧倒された。
音楽は特に素晴らしい・・
とにかく、観るべし!観るべし!

親友君(ロドリゴ・デ・ラ・セルナ)はアルゼンチン俳優で、わたしがDVDで
既に注文した「Same Love, same rain」 に出てるそうだ。ふふふ、観るのが楽しみ♪


#ガエルは少し肉体改造して、筋肉もりっになっていたが、
あいかわらず上手い!
あの目の力。 繊細で優しく、強情で頑固、若者のすべてを内包できる力をもっている。
なんで瞳があんなにキラキラしてるんだろう。まいったね。。


悔しい事に、日本では、この手の映画は宮崎アニメのような形でしか
作れない。本物の人間では作れないのが、日本映画の弱いところだと、
映画を観終わったとき、ふと思った。。
(2004.11.28)

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Nueve Reinas(2000年 アルゼンチン)


Nine Queens という英題で英語字幕つきのものを観た。

アルゼンチンでは記録的な大ヒットを飛ばし、スティーヴン・ソダーバーグと
ジョージ・クルーニーがリメイク権を買って、今すでに「The Criminal」として
公開されている。
だが、アメリカ版を見た人の書き込みによると、脚本もそのまんま、
セリフさえオリジナルの英語字幕と同じところが多々あり、舞台をアメリカに
移した分だけ面白みも減った、ようだ。

そう、とにかく、オリジナルのこの映画は、ものすごく面白い!

ストーリーは、たった一日の出来事なのだ。
若い詐欺師がベテラン詐欺師に出会い、これも何かの縁だと、いろいろ
教えてもらってると、偶然大きなヤマが転がり込む。。

こんな儲け話は、一生に一度出会うか出会わないかだぞ、と言うベテラン詐欺師。
若い詐欺師は、ベテラン詐欺師が信じられないが、でも、彼は事情があって、
お金を必要としている。。
切手コレクター、垂涎の一品「9人の王妃」。
この切手シートをめぐって、騙し騙されの知能合戦が繰り広げられる・・・・

詐欺のテクニックといい、出てくる人たちの胡散臭さといい、
映画を観ているだけで楽しくなってくる。
ネタばれしても何度でも観れる小粋なコンゲームなのだ。
脚本は実に良く出来ていて、一体、誰が誰を騙しているのか、ちっともわからない。
脚本兼監督のファビアン・ビーリンスキーは隅々にまで気を配っていて、
ブエノスアイレスの街なみがとても自然に背景になっていて心地よいし、
無駄なセリフがないし、俳優たちの表情といい、ちょっとしたしぐさといい、
役者を見る喜びがある。

そして、

けっこうしっかり観ていたつもりなのに、、、あーー! やられたぁ・・・

身構えてみていたのに、やられちゃったよ。
そうか、これか、、
ふふふふ、やられちゃったのに、笑いがこみあげてきて、幸せ気分になっちゃった。
苦い教訓というか、味のあるラスト、英語サイトで「Cool」と書いてあったが、
まさにクールなラストだ。


ベテラン詐欺師、リカルド・ダリン、アルゼンチンでは大人気俳優だそうだが、
このうさんくさい顔がねぇ、いいのよ、まじで、ぴったりなの。
若い詐欺師、ガストン・パウルズ、詐欺師に向かない純粋な瞳がねぇ、武器なのよねぇ(笑)
(2004.12.01)

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El Mismo amor, la misma lluvia (1999年 アルゼンチン)

(The same love, the same rain)が直訳。

これは正確には映画の感想とは言えない。
なぜなら、字幕もないスペイン語の映画をみたわけで、何を言ってるか、
さっぱりわからないから(自爆)。

それでも、どーしても言いたい・・って気持ちでちょっと書かせてね。

映画は1980年から90年の10年間の物語。
主演のふたり、リカルド・ダリン演じるホルヘと、Soledad Villamil(なんて読むんでしょうねぇ。
ソレダー・ヴィジャミルって感じかなぁ)演じるローラが、恋に落ちて、別れて、再会して、
また離れて、また再会して、、
というドラマなんだけど、背景には83年の軍事政権の終焉がある。
で、詳しい内容はいつかちゃんと分かるようになったとき書くとして、

何言ってるか、わからないのに、リカルド・ダリンの魅力に驚いてしまった。

決してハンサムじゃないのに、空色(青じゃない)の目が語りかけてくる。
目にものを言わせる、って本当なんだわ。
表情の変化、目の変化が、やばいほど伝わってきて、どきどきしてしまうの。

コミットメントを恐れるヒーロー。HQではよくあるヒーロー像よね。
永続的な関係を結ぶ事ができない、「愛してる」と女から言われるのを恐れる男。
28才から38才までを描いているんだけど、実年齢がこのとき43くらいのはず。
それなのに、マジで28くらいに見える。。
小説を書いているけれど、これでは食えないから雑誌社で記事を書いていて、、
理想では生きていけない、と思いながらも、理想を追っていた彼女の事が忘れられなくて、
下の「Nueve Reinas」とは全く違うキャラクターになっているのよね。
何言ってるかわからないくせに、感動してしまう自分がいるのが、すごいわね。


本気でスペイン語通訳をしてくれる人を雇って、一緒にDVDを見てもらおうかなぁ・・・

#「モーターサイクル・ダイアリーズ」でゲバラの親友役をやったロドリゴ・デ・ラ・セルナが
出ているのだが、注意していなかったら、分からなかったわ。
あの映画よりずっとハンサム君なのね(笑)。

## 後日追加
スペインから来たポスドクの人にDVDを貸して(押し付けて?)見てもらったのだが、
残念ながら軍事政権下の、知り合いが逮捕されたエピソードについては詳しく分からなかった。
といっても、大筋は全部思った通りで、軍事政権前後の時代をリカルド・ダリンとソレダー・ビリャミルの
恋愛を軸に描いていて、最後は再出発の予感で終わっている。
はっきりしたことは、過ちをおかしたホルヘ(ダリン)がローラ(ソレダー・ビリャミル)を失ったあと、
ローラは故郷の誰かと結婚した事、子供を生んだが夫とは離婚(死別?)した事、
もう一度同じような雨降りの夜に、同じように恋に落ちるかも、、という事。

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