2006年その7


ココシリ kekexili (2003年 中国)

監督・脚本ルー・チューアン

映画が終わってもしばらくは動くこともできずにいた。

チベットカモシカの密猟者を追う山岳パトロール隊と、彼らに同行するひとりの
ジャーナリスト、 一行は海抜4700mというココシリ(チベット語で
青い山々を意味すると言う)を舞台に過酷な追跡をする。

百万頭いたといわれたチベットカモシカは乱獲により20年で1万頭にまで激減したという。

ハゲタカが舞う空、、鳥葬が行われる世界、、空気は薄く、暴風と雪が吹きつけ、
流砂が車も人も飲み込む世界。

そんな世界も外の世界と無縁ではいられない。
ろくな換金資源の無い山岳地、かつて羊が放たれていた場所も無残な砂漠化が
すすんでいる。日用品を手に入れるのにも、医者にかかるのにもお金が要る。
追う者も追われる者もそのほとんどが貧しい。

密猟グループのボスの利己主義と酷薄さに、ふいに気づく。
あれは彼の後ろにいる私たち、豊かな暮らしをしているわたしたちだ。
無礼で傲慢な貨幣経済が、土地と人間を侵食している。

山岳パトロール隊員たちが守りたいと願う世界の厳しくも厳かな美しさに、
青白い山々に、満天の星空に、言葉を失う。
映画は鳥葬で始まり、鳥葬で終わる。
ここがチベットの人々の魂が再び還ってくる場所であることを静かに物語る。

ココシリを命をかけて守る人々に、ペンや映像が微力ながらも力を貸せるのだとしたら
世界にはまだ小さな希望と良心が残っているのだろう。

(2006.12.30)

----------------------------

奇跡の朝 Les Revenants (2004年 フランス)

ふぅ・・・
どういう気持ちでこの映画を作ろうと思ったんかなあ。
そう言いたくなるほどやり切れない複雑な気分に駆られる。

もっとファンタジー色なのかと思ったら、まるで違った。
フランスらしい? 妙に現実的で理性的な説明や対応を繰り広げる一方で
重い重い気分をもたらすドラマなんである。

ある朝突然、世界中で死者がよみがえる。その現象は2時間続いてパタッと止む。
よみがえった死者はこの10年以内に死んだものがほとんどで、
全体の65%が60歳以上、40歳以上60歳未満が25%、40歳未満は10%だった。

舞台はフランスのとある市。この市だけでも1万3千人もの人間が甦った。
ほとんど難民問題のように、蘇生者対策が検討される。
身元の確認、家族の引き受けの有無、精神的ケア、雇用問題、、、

蘇生者は一様に体温が低く、注意力に欠け、コミュニケーション能力に難がある。
死んだと思った者がよみがえり、手放しで喜ぶ者もいれば、戸惑う者、迷惑がる者もいる。
映画ではここで、蘇生者を迎える人々の三者三様を描く。

これが、、、ツライんである。

突然子供を失った夫婦は、最初歓喜するが、甦った子供は生きていた頃の子供ではない。
彼らは再び「息子の死」を実感しなければならない。
あぁ、この夫婦のエピソードの胸えぐられる残酷さと言ったら。。

恋人とささいなけんかをした朝に交通事故で死んだ男がよみがえる。
仕事仕事で、妻を顧みなかった男の老妻がよみがえる。

人が「死」をどう受けとめたか。死者をどう自分の中で位置づけたのかが問われる。

「愛してるともう一度君に言いたくて」
そういう人ばかりだったら切ないロマンスだったんだが・・・

(2006.12.29)

----------------------------

Powder Keg (2001 アメリカ)

本当はずいぶん前に見たのだが、感想をここに書いておく。
これは正確には映画とはいえない。BMWのオンライン・コマーシャルフィルムとして
作られたもので、正味8分ほどのものだ。

クライブ・オーウェンがドライバー役となり、著名な監督たちに好きなように
作らせたCMフィルム「HIRE」は、なんとも贅沢な出来栄えとなっているが、
なかでもこれ、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが監督したこの作品は
一度目にしたら、「え?一体これって誰?誰がメガホン取ったの?」と
訊かずにはおれない。

ストーリーは別に目新しくないのだが、短編とはかくありき、というほど
無駄なく、限られた時間に人生を濃縮して描きだしている。


----------------------------

僕は・・・ Soy (2003年 メキシコ)

54分のドキュメンタリー映画、監督はLucia Gájá という。

メキシコでConductive Education を実践している「ConNos/Otr@s, A.C.」という施設と、
そこで学ぶ4人の子供たちを丹念に追っている。
(施設の名前は con nosotro(a)s ”わたしたちと共に”をもじってつけた名前だろう)

脳性小児マヒ(CP)の子供たちに施される治療は Conductive Education (誘導教育)と
映画では訳されていたが、日本では、集団指導療法 とか 教育学的治療法 とか
ペトゥ・システム と呼ばれているようだ。50年ほど前にハンガリーで始まった療法と
いうことだが、もちろん私は初めて目にした。ペトゥ・システムについてはこちらが詳しい。

固定概念を抱いていたわたしは、不遜にも画面に登場する彼らの正常さに驚き、
誇り高く挑戦する一人の人間としての彼らを目にして、その知性のきらめきに
自分を恥じてしまった。

自分の存在に尊厳と誇りを持つことがいかに大事であるか、画面から伝わってくる。
なかでも詩人の少年が自分の思いを語る言葉は
瑞々しいのに、同時に老成した男の言葉を聞くようで、敬虔な気持ちになった。

統合的な教育や治療の重要性に目を開かされる思いだが、日本ではどうなっているんだろう。
(2006.12.24)

----------------------------

キング 罪の王 The King (2005 USA UK)

ガエル・ガルシア・ベルナウが主演ということで見に行ったのだが、
こりゃ、ガエル君じゃなかったらもっと胸糞悪い映画になっていたんだろうなぁ。

アメリカの社会とキリスト教が独特のマッチョイズム、男性性信仰をもっていることを
常々胡散臭く、若干怖く感じていたが、それをこうまで直裁に描くとは。

よくみると監督はイギリス人なんだ。やっぱ、アメリカ人じゃないのね。

カインとアベルのようでもあり、ギリシア悲劇のようでもあり、愛と復讐と、
罪と懺悔のごった煮が、少々くどく感じちゃったのだが、
これでどうだっ、まいったかぁ〜! と最後の場面で監督は言いたかったんだろう。

ガエルの実の父親役を演ずるウィリアム・ハートが嫌になるくらいはまっていた。
(しかし。。アンタ昔は美形だったじゃないのサ・・涙)

進化論反対!のいかにもダサイ兄ちゃん、ポール・ダノもほんま嫌になるほど
ぴったりだった。

映画とは全く関係ない話なんだが、
この感想を書く前に、偶然モーリス・センダックの「怪獣たちのいるところ」
(Where the Wild Things Are)をアマゾンで調べていた。
で、それからこの感想を書くにあたって、あのしょぼい兄ちゃんポール・ダノの
経歴を調べてたら、なんと、
彼は2008年公開予定の「Where the Wild Things Are」に声で出演するという。
そんなの映画化されるってことも知らなかったってのに。。驚き。

# ガエル君、その瞳といい指先といい、アメリカ男にゃ敵うわけない、って
感じなんだが、クローズアップは良いとして、ロングショットになると・・
まわりがデカすぎて辛い。。
(2006.12.16)

----------------------------

ゴッホ Vincent & Theo (1990 オランダ・UK・フランス)

ロバート・アルトマン監督。
ティム・ロス主演ということで借りた。

時系列でティム・ロスを見ていたらこの映画も新鮮だったんだろうな。
今ごろになって昔の彼の映画を見ると、、ありゃりゃ、ちっとも変わっていないのね、
いつもそういう役をやってたのかぁ〜、、なんてことを思ったりする。
生きる力が薄いようなくせして頑迷で、コンプレックスとプライドがせめぎあっていて、
狂気をはらんだ男の役をやらせるとピカイチなんだが、またか、と思わなくもないのだ。

映画は画面の構図や色がとても美しく、格調高い光と艶がある。
だがストーリーは通り一遍な感じがして、やや物足りなかった。
彼らの苦悩や狂気を傍でただ見てるだけに近い感じか。

ヴィンセントよりもテオのほうが哀れで哀れで(涙)。
(2006.12.06)


----------------------------

マイ・ボディガード Man on Fire (2004 アメリカ)

カルロス・バレーラの歌が挿入歌で使われているというので借りてみたが。

デンゼル・ワシントン、太ったなぁ・・・
一瞬、ヴィン・ディーゼルの映画を間違って借りたのか、と思っちゃった(うそ)。

原作はクィネルの「燃える男」だそうだが、後半全くノレず、こんなつまんない話を
ほんとにクィネルは作ったんかよ、と思って調べてみたら、原作とは違う筋立てに
なっていることがわかってホッとした。

天才少女、あのダコタ・ファニングちゃんを起用したから、こういう脚本に
なっちゃうわけね。

心も体もボロボロの元特殊部隊員クリーシーが誘拐されたダコタちゃんのために
巨大な犯罪組織に立ち向かい、復讐の鬼と化す。ってんだけど、ただ扇情的なだけで、
アメリカ人の正義を振りかざす好き放題振り。
ボカスカ、ドバッグサッ、、殺しの芸術家ときたか、これってもしかしてコメディ?
爆笑してしまった。

犯罪の背景に深みは加わらないし、メキシコ人父ちゃんにはとことん冷たいのに、
同じくらい浅いアメリカ人母ちゃんには甘いってのも嫌な感じだし、
ドラマは薄っぺらだし、
ダコタちゃんとクリストファー・ウォーケンとデンゼルが出てる。って事だけしか
見る価値なし。

画面は粗いフィルムと手持ちカメラ風、しめの歌がカルロス・バレーラときたら、
まさに、BMVのコマーシャルで、アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督が
メキシコを舞台に撮ったフィルム「Powder Keg」まんまじゃないか。。。

トニー・スコットさん、これってぱくりじゃないんですか?
(2001.12.01)


シネマに戻る   ホームへ戻る